日本の子どもの自殺の要因は?最新報告書を読み解く
こんにちは、5月5本目の記事です。
米国では25日月曜日がMemorial dayとなって休日になっています。この日は戦没将兵追悼記念日であり、米軍で任務中に亡くなった人々を追悼する連邦祝日だそうです。毎年24日というわけではなく、これは5月の最終月曜日となっているようです。
うちの3姉妹はこの3連休を謳歌していますが、自宅にいる場合はスクリーンタイムとの戦いになりますので、しっかり勉強させないといけません。私も仕事漬けなのですが。。
さて、今回もよろしくお願いします。
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ところで、ここ数年、子どもの自殺に関するニュースを目にする事が多くないですか?
実はこのニュースを聞くたびに自分は3人の子どもを育てる父親としてはもちろん、小児科医としても心を痛めています。
自分は小児科医として今まで子どもの病気を治して少しでも充実した人生を送ってもらおうと頑張ってきました。しかしその先に子供たちが自分で命を断つと、とても悲しく、虚しく、自分の無力感を感じるようになりました。
そして同時に、こういった子ども達の背景でいま、何が起きているのだろうと考えることが本当に増えました。
そんななか、2026年4月にこども家庭庁から「令和7年度 こどもの自殺の多角的な要因分析に関する調査研究 報告書」が公表されました(#1)。専門家会議の助言を得ながら、メール相談644人分と匿名オンライン掲示板22,751人分という、これまでにない規模の生きている子どもたちのリアルな声を、AIと専門相談員のダブル体制で読み解いた報告書です。
結構大事な報告書なので、今回はこの報告書を親御さんやふだん子どもの近くにいる大人達に向けて、できるだけ噛みくだいてご紹介したいと思います。
尚、今回の記事に開示すべき利益相反はありません。
少し重たい話題ですが、数字を知ることは子ども達、次の世代を守る第一歩でもあります。
子どもの自殺は、いま日本でどんな状況にあるのか
過去最多538人という数字が伝える深刻さ
まずは現状の整理からです。
報告書の冒頭には、こう書かれています。
「日本における小中高生の自殺者数は近年増加傾向、令和7年は538人と過去最多を記録」
少し前を振り返ると、令和6年の小中高生の自殺者は529人で、これも統計を取り始めた1980年以降の最多でした(#2)。それを9人さらに上回ったのが令和7年です。
同じ年、日本全体の自殺者数は初めて2万人を割って減少傾向だったにもかかわらず、子どもだけが高止まりどころか増え続けています。この事実だけでも、いま日本の社会が、子どもにとってどれほど生きづらい場所になってしまっているのかが伝わってきます。
性別の内訳もぜひ知っていただきたいところです。
令和7年は女子280人、男子258人で、女子が男子を上回り、特に女子中学生と通信制・定時制高校の女子の増加が目立っています(#2)
これを見れば、思春期女子のメンタルヘルスが社会全体で支えるべき優先課題になっていると言ってよいでしょう。
国際的に見ても、日本の状況はやはり際立っています。
OECD加盟国のなかで、若年層の死因の第1位が自殺である国はそう多くなく、日本は10〜19歳の死因第1位がずっと自殺のまま推移しています。まあ逆を返せば、治安の良さという事の裏返しにもなるわけですが。
交通事故やがんよりも、自分で自分の命を絶ってしまう子どものほうが多い事実は、改めて文章に起こすと、やはり胸が痛みます。
亡くなった後では届かない声を聴く新しい試み
これまでの政府の調査は、亡くなったお子さんの背景を、ご家族や学校から聞き取って分析するというアプローチが中心でした。もちろん貴重な研究ですが、どうしても限界があります。亡くなった子の心の中、その子だけが感じていた苦しさは、いくら丁寧に聞き取っても完全には再現できないからです。
そこで今回の令和7年度の調査が新たに取り入れたのが、生きているこどもたちの声を可視化する、というアプローチです。本調査では、集めたメール相談の記録(期間は2020年4月~2025年3月)を、本人と自治体の同意を得たうえで研究データとして分析しています。
NPO法人OVAは、「自殺」「死にたい」といったキーワードがネット検索された際に、検索結果に無料相談広告を出して接点を作るインターネット・ゲートキーパーという活動を10年以上続けてきました。本調査では、そこで集まったメール相談の記録(2020年4月~2025年3月)を、本人と自治体の同意を得たうえで研究データとして分析しています。

上の報告書図3.1.によると、対象になった644人は、女性が84.0%、年齢は11〜15歳が44.6%、16〜18歳が54.0%。受診歴のある子は16.6%にとどまる一方、自殺企図歴(自殺を試みたことがある)を持つ子が49.8%と、ほぼ半数にのぼっていました。
専門医療には届いていないけれど、すでに命の危機の手前にいる。子どもたちが、いまネットの片隅で声を上げている、ということです。
644人はどのようなことで悩んでいるのか
膨大なメール本文をどうやって科学的に分析したのかも、この報告書のおもしろいところです。
研究チームは、過去の調査で得られた自殺の兆候をもとに、9つの大カテゴリ・32の中カテゴリ・88の小カテゴリからなる「危険因子リスト」を作成し、別に「保護因子リスト」も整備しました(報告書 表2.3, 表2.4、これは長いので掲載は割愛)。
そのうえで、まず100人ぶんを相談員2名とAI(Claude Sonnet 4)の両方でコーディングし、一致度を検証しています。
観察一致割合は86.29%、Gwet's AC1係数は0.81とほぼ完全な一致レベルだったため、全644人のデータにAIを適用し、最後にもう一度専門相談員が読み直して修正する、というハイブリッド方式が採用されました。
AIを最終判断者ではなく一次仕分け係にし、判断には必ず人間が責任を持つというこの設計の慎重さに好感を持ちました。
ちなみに、相談開始時に測ったK6(こころの状態をはかる尺度)の得点を見ると、13点以上の「重症精神障害相当」の状態だった子が84.2%でした。

同じ年代の一般集団では2.0%しかいない水準ですから(#5)、本調査の対象がいかに切迫した子どもたちだったかが分かります。
子どもの自殺の危機はどのように深まっていくのか
始まりは「家庭」と「学校の人間関係」
ここからが、この報告書のいちばんの読みどころです。
研究チームは、子どもが相談に至るまでの人生のなかで、危険因子がどんな順番で現れたかを丁寧に並べていきました。報告書の表3.3.には、32の中カテゴリの平均出現順位が一覧になっています。

数字が小さいほど人生の早い時期から抱えていたことを示すのですが、上位5位は次のような顔ぶれでした。
1.「その他の家庭問題(1.93位)」
2.「家族機能の問題(2.51位)」
3.「虐待・暴力(2.65位)」
4.「学校での人間関係(2.83位)」
5.「その他の学校問題(2.91位)」
これらの結果を見ると、自殺の危機の上位には家庭の問題と学校の人間関係という二つの環境要因が並んでいるということがわかります。
これは私の臨床感覚ともよく重なります。
診察室で眠れない、学校に行きたくないと訴える子ども達の話をよく聞いてみると、その背景に、家での息苦しさや友達関係のもつれが何年も積もっていることが少なくありません。本人もこれが原因と気づいていないことすらあります。
内側で進む精神的不調と自己否定のスパイラル
危機経路の中期(平均出現順位5〜6位前後)には、「精神的不調(5.18位、出現割合78.7%)」「自己への否定的認知(5.33位、69.1%)」「心身の不調(5.71位、51.4%)」といった、心と体の内側で進行する不調が並びます。
ここで起きていることは、こんなふうに想像できます。
家庭や学校で安心できない状態がじわじわ続くと、子どもは眠れなくなり、お腹が痛くなり、朝起きられなくなります。自分はダメだ、みんなに迷惑をかけていると自己否定の思考が増え、その思考がさらに気分を落ち込ませてしまう。ちょうど、雨で濡れた毛布がだんだん重くなって自分の上にのしかかってくるような感覚です。
そして後期(平均出現順位6位以降)に出現するのが、「切迫した心理的苦痛(6.92位、75.2%)」「自己破壊的行動(7.07位、22.4%)」「自殺の行動化(8.79位、7.5%)」「自殺の具体化(9.09位、14.6%)」、そして「専門的支援への障壁(9.46位)」です。
報告書はこの流れをわかりやすい図3.4.にまとめており、精神的不調と自己への否定的認知が相互に作用して、切迫した心理的苦痛つまり希死念慮を引き起こし、最終的に未遂や準備行動へと至る、と整理しています。

特に私が小児科医として注目したのは、専門的支援への障壁が最後のほうに出てくる点です。子どもが「助けてほしい!」と思ったときには、もう問題はかなり深刻化していて、相談先にたどり着くハードルも高くなっている可能性があります。これは大人側が「もっと早く言ってくれれば」と感じる場面と裏表の現象でもあります。
報告書の表3.4.と表3.5.には、「自殺の具体化」「自殺の行動化」と特に共起しやすい因子が一覧化されているのですが、ここで上位に並ぶのは「家族以外の身近な人の自殺や死別(リフト値2.31〜2.98)」「家族機能の問題(2.02〜2.09)」「社会的影響による感情変化(1.92〜1.98)」など、いずれも「外から強いショックが加わる」種類の出来事です。
身近な人を喪った直後やSNSで誰かの死の情報に触れた直後は、子どもの心はとても敏感になっている、という事実を覚えておきたいところです。
なお、こうした危機経路の解釈には注意点もあります。
報告書自身も明記しているように、平均出現順位はあくまで「相対的な位置」を示すものであり、誰にでも当てはまる絶対的なタイムラインではないという点です。子どもごとに抱える因子の数も内容も違うため、これは誰にでも当てはまる確定的な要因なんだと読んでしまうと誤解が生じてしまいます。
高リスクの背景にある「言いにくい家庭の問題」
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