なぜ探偵ナイトスクープのヤングケアラーの回は燃えたのか
皆さんこんにちは。
1月6本目の記事です。
今回は一時帰国している日本から書いています。日本は寒いですが、今回は実家のある金沢と、友人のいる長野に行ってきたのですがこの2つの都市の寒さは尋常ではありませんでした。
ユニクロへ行って、ネックウォーマーと極暖のヒートテックの上下を買いました。それで何とか暖かさを保てましたが、金沢は特に雪が膝の高さまで積もっていました。
終日25℃のカリフォルニア州から来た自分としては同じ世界とは思えませんでした。
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名番組「探偵!ナイトスクープ」のヤングケアラー問題
1月23日夜、関西を中心に長年愛されてきたバラエティ番組「探偵!ナイトスクープ」の放送後、SNSで物議を醸しています。
この日放送されたのは、広島県在住の小学6年生の男の子からの依頼。「6人きょうだいの長男を1日だけ代わってほしい」という内容でした。
探偵ナイトスクープ公式Xより
依頼主の少年は12歳。下には10歳、8歳、5歳、2歳、そして0歳の弟妹がいます。
彼は日常的に幼いきょうだいたちの面倒を見たり、家事を手伝ったりしていると放送で述べています。
「疲れた」
「同級生が羨ましい」
そんな本音を抱えた少年の代わりに、霜降り明星のせいやさんが1日だけ「長男」を体験するという企画でした。
番組は、せいやさんが乳幼児の世話や家事に追われてクタクタになる様子をコミカルに描きつつ、最後は「頑張っている長男くんにエールを送る」という感動路線で締めくくられました。
私も関西で12年間過ごしてきた身としては、まさに従来のナイトスクープらしい、笑いと涙の詰まった構成だったといえるでしょう。
しかし、放送直後からXを中心に、予想外の反応が広がり始めました。
「これは美談なのか?」
「ヤングケアラーそのものではないか」
「親は何をしているのか」
「感動ポルノだ」
こういった批判の声が瞬く間に拡散し、翌日には大炎上へと発展していました。
特に視聴者の怒りを買ったのは、番組終盤に流れたある音声でした。
家の中から母親らしき声で「米炊いて、7合」という指示が聞こえ、長男がそれに応じる場面。この数秒のシーンが「12歳の子どもに当然のように家事を命じる親」の象徴として切り取られ、批判の的となりました。
そして、炎上はさらに加速します。
ネット上では両親、特に母親の過去のSNS投稿が掘り起こされました。「家事育児はできるだけしたくない」といった発言が発掘され、「育児放棄」「親の怠慢」として攻撃の対象になったのです。
一部では「児童相談所に通報しよう」「家族を特定しろ」といった過激な書き込みまで現れ、誹謗中傷が家族本人に直接届く事態にまでエスカレートしました。
事態を重く見たABCテレビは、1月25日に異例の公式声明を発表。
「ヤングケアラーは重要な社会的課題として認識している」とした上で、「家族の事情は多様であり、この家庭では父親が主に育児を担当し、長男はあくまで手伝いという位置づけ」と説明しました。
同時に動画配信サービスTVerでの配信を即時停止し、家族への誹謗中傷をやめるよう呼びかけました。
ところが、この声明がかえって火に油を注ぐ結果となります。
翌26日、局は追加の声明を発表。番組内で物議を醸した一部のシーンである、父親が乳幼児を残して外出する場面や、母親の「米炊いて7合」という発言は、実際には番組の編集・構成上の演出だったと明かしたのです。
この「演出」という言葉が、新たな批判を呼びました。
「ヤラセだったのか」「問題を軽く見せるための演出だったのか」「確信犯ではないか」
一方で、「演出があったとしても、長男が日常的に家事育児を担っている実態は変わらないのでは」という冷静な指摘や、「SNSの正義感が暴走して家族を追い詰めている」「このままでは長男くんが一番傷つく」といった、炎上そのものを批判する声も上がり始めました。
1月27日以降、この問題は単なる番組批判を超えて、社会問題として広がりを見せています。
政治家や社会福祉の専門家、メディア論の研究者などがコメントを発表。「昭和の頃は上の子が下の子の面倒を見るのは当たり前だった」という世代間の価値観の違いを指摘する声がある一方、「時代が変わった今、子どもには子どもとしての時間を過ごす権利がある」「子どもの権利条約の観点から問題がある」という反論も出ています。
重症のSNS依存である私から見て、問題をめぐる議論は現在大きく三つの立場に分かれていると考えます。
一つ目は、番組と家族を厳しく批判する立場。12歳の子どもが日常的に乳幼児の世話や家事全般を担うのは明らかなヤングケアラーであり、子どもの遊ぶ時間や勉強する時間、友達と過ごす時間が奪われていると主張します。また、番組がこれを「美談」「感動話」として描いたことは、問題の矮小化であり、虐待のエンタメ化だと非難しています。
二つ目は、家族と番組を擁護する立場。大家族では上の子が下の子の面倒を見るのは昔から普通のことであり、これを外部の人間が一方的に「虐待」「ヤングケアラー」とレッテル貼りするのはお節介だという意見です。長男本人が自ら番組に依頼しており、家族で協力し合う「ワンチーム」の精神を否定すべきではないとも主張しています。
三つ目は、炎上そのものを批判する立場。家族の特定、直接的な誹謗中傷、児童相談所への通報呼びかけといった行為は、もはや正義ではなく私刑だと警鐘を鳴らします。もし家族が崩壊すれば、一番傷つくのは当の長男くんではないか、そう問いかける声も少なくありません。
1月29日となった今でも、Xでは関連ワードがいまだにトレンドに上がり続け、議論は収束の気配を見せていません。ABCテレビは繰り返し「深く反省している」「家族の尊厳を守ってほしい」と訴えていますが、視聴者の受け止めとのギャップは埋まらないままです。
この騒動の中心にいる12歳の少年は、いま何を思っているのでしょうか。それが自分にとっては気になります。
彼の疲れた表情、同級生が羨ましいという言葉に多くの人が心を痛め、それが怒りへと変わりました。しかし皮肉なことに、彼を「守ろう」とする善意の声が、彼の家族を追い詰め、結果的に彼自身をさらに苦しめる可能性すらあると思っています。彼にとってもご両親が社会的に批判されるのは本望ではないはずです。
しかし、この一連の出来事は、社会に改めて重要な問いを突きつけています。「ヤングケアラー」とは何か。家族の助け合いと、子どもへの過度な負担の境界線はどこにあるのか。そして、SNS時代における「正義」と「暴力」の境界線とは。
小児科医として、そして一人の大人として、私はこの問題を深く考えずにはいられません。本稿では、この炎上騒動をきっかけに、日本におけるヤングケアラー問題の実態と、私たち大人が子どもたちのためにできることを、医学的・社会的な視点から考えていきたいと思います。
意外と知られていないヤングケアラー問題
日本では2024年の法改正により、ヤングケアラーは「家族の介護その他の日常生活上の世話を過度に行っていると認められる子ども・若者」として、国や自治体が支援に努めるべき対象として正式に位置づけられました(#1)
学校向けの資料では、家庭内の「お手伝い」とは異なり、年齢や発達に見合わない重い責任や負担になりうる点が強調されています。支援対象の年齢は「30歳未満、状況によっては40歳未満」までを想定し、切れ目のない支援が必要とされています(#2)
では実際に、日本にはどれくらいのヤングケアラーがいるのでしょうか。
厚生労働省が文部科学省と連携して行った中高生調査では、「世話をしている家族がいる」と答えた割合は、公立中学2年生で5.7パーセント(約17人に1人)、全日制高校2年生で4.1パーセント(約24人に1人)でした(#3)。定時制高校では8.5パーセント、通信制高校では11.0パーセントと、より高い割合が報告されています。
さらに注目すべきは、世話が「ほぼ毎日」という回答が多く、平日1日あたり7時間以上を世話に費やしている子どもが約1割から2割いるという事実です。平均でも中学2年生で約4時間、全日制高校2年生で約3.8時間を家族の世話に使っているとされています。大学生についても、こども家庭庁関連の調査では、大学3年生の6.2パーセントが「現在、家族の世話をしている」と報告されており、ヤングケアラーは決して子どもだけの問題ではないことがわかります。
ヤングケアラーが担っている内容は、介護そのものに限られません。
食事の準備、掃除、洗濯などの家事全般、見守りや声かけといった感情面での支え、きょうだいの世話、目が離せない家族への対応など、その範囲は多岐にわたります。ここで重要なのは、「何をしているか」よりも「どれくらい過度か」という点です。同じ家事でも、時間的な負担、責任の重さ、本人の生活への影響の程度によって、問題の深刻さが変わってくるのです。
この問題の根深さは、何よりも「見えにくさ」にあります。
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