「小児科が混むのは無料のせい?」議論をデータ検証
皆さんこんにちは。
2月3つ目の記事ですね。私の住むロサンゼルスでは少しずつ暖かくなってきて、日中は半袖の季節になってきました。例年12月と1月が寒いんですが、今年も同じような気候の流れでした。
今回はSNSで紛糾した「小児科混雑の原因は、無料化による過剰受診が原因なのか」という問題について解説していきます。
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事の発端
先週、小児科混雑問題がSNSで燃え上がっていました。
きっかけは、子育て経験者で元国会議員秘書でもある村上ゆかりさんの下記の投稿でした。
これに対して、保育士のてぃ先生が反論ポストを投稿しました。そのポストは3.7万以上の「いいね」と4700以上のリポストを集め、議論は一気に広がりました。てぃ先生の主張はこうです。
おうおう、温厚なてぃ先生が珍しく語気を荒げて怒ってますね。
彼とは東京で鰻を一緒に食べてからの仲で、何度も食事に行っていて、仲良しの関係です。あんなルックスなのに意外と来年40歳のおじちゃんなので、彼の血圧が心配です。
一方で、SNSではこの投稿をきっかけに、多くの親や医療従事者から共感の声が相次ぎました。
「無料だから行く親なんていない」
「小児科不足が本当の問題だ」
「待合室で別の病気をもらうリスクを考えたら、気軽に行けるわけがない」
子どもの体調が悪いときに、仕事を調整して、きょうだいの預け先を確保して、混雑する待合室で何時間も待つ。それがどれほど大変なことか、実際に経験した親たちだからこその声が集まりました。
一方で、小児医療関係者や医療現場からは異なる意見も出てきました。
「実際に『無料だから来ました』と言われたことがある」
「念のため受診が増えている面はある」
という声もありました。保育園の登園許可をもらうためだけの受診や、無料だからという理由で軽い症状でも受診するケースがゼロではないという声でした。
皆さんご存知、私は日本の小児科の現場で小児科医として16年間働いた後(見た目は小児科医っぽくないと言われること1万回....)、今は米国で米国のデータを使って医療政策の研究をしています。
そういう立場から見て、今回の論争をとても複雑な気持ちで見ていました。
というのも、ここではかなり感情論と感情論のぶつかり合いで、真偽もわからない情報が錯綜して、あまり建設的な議論に発展していなかったからです。
自分もSNSでコメントしようかなと思ったのですが、140文字でこれを伝えるのはなかなか難しいし、切り取られて一方の肩を持ってると思われたら嫌だなと思い、今回は静観していました。
当然、我々医療業界もこの現状に指を加えてみているだけではありません。この件に関してはいろいろな研究がなされていますので、一つ一つ丁寧にエビデンスを抑えていけたらと思います。
今回の議論には以下の3つの論点があると思っています。
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小児科医は減っている?小児科は足りてない?
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小児科が混雑するのは無料が原因?
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なぜ日本の小児科は混雑する?
今回はこれらのテーマについて解説していこうと思います。
小児科医は減っている?小児科は足りてない?
まず1つ目の質問に関してです。
これはよく政治家さんが選挙の度に(?)言っている決まり文句ですね。
「我が街に小児科医がいない!」
「小児科が減っている!小児科医の成り手が減っている!」
はい、これはよく聞く言葉です、本当に。この「小児科医は減っている?」という問いは本当でしょうか?
まあこれは小児科医なら誰でも知っているファクトなので、簡単に説明しますと有難い事に「小児科医は年々増えています」。
下のグラフは厚生労働省が毎年発表している「医師・歯科医師・薬剤師統計の概況」の最新版(#1)ですが、小児科医の数は過去最高の18,009人で本当に毎年着実に増えている事がわかります。産婦人科も増えていますが小児科医の方が1.6倍多いですし、外科に至っては高齢化社会にも関わらず直近5年間で顕著に減少傾向です。
さらにこれに拍車をかける数字を出すと、小児科医の数を見る時に以前は15歳未満人口あたりの小児科医数を見ていました。上のグラフに15歳未満人口10万対の小児科医師数のグラフを足してみましょう。それが以下のグラフです(#2)
これを見ると、15歳未満人口あたりの小児科医数は近年一貫して増加し、平成6年を1とすると令和2年には約2倍になっています。当然、これは小児科医が増えただけではなく、少子化がそれだけ進んでいるので分母が小さくなったためとも言えるので、小児科医が増えたという事を示すには用いられなくなっています(少子化の進行が激しすぎるため)
では、小児科医ではなく、小児医の病院やクリニックはどうでしょうか?
ちょうど厚労省のワーキンググループが令和7年10月に出しているデータがあるので見てみましょう(#3)。
これを見ると、小児科の病院は1996年の3844施設から2023年の2456施設と約2/3に減っている事がわかります。
一方で小児科のクリニック(診療所)はその定義では細かく変わりますが、1996年では2,559施設に対して、2000年代~2010年代にかけて増減しつつ2023年には3,006施設となっています。
確かに小児科の開業医の先生は結構年配になってもされていますし、新しく小児科クリニックをはじめる先生も意外と多いのでこの数字は合点がいきます。一方で小児科を扱う病院は確かに減ったなという印象です。自分が小児医療に携わったのは2007年と19年前ですから、その頃に比べると随分減ったなという印象を持ちます。
つまり、病院が持つ入院や救急の受け皿が減ると、地域によっては「小児科が足りない」と体感されやすいという事でしょう。外来中心のクリニックが横ばいでも、病院機能が細ると夜間・救急・入院が詰まりやすいのです。
この「病院の減少×機能負荷」が、不足感の説明としては一番強いです。
小児医療の問題は数より偏り?
小児医療の問題は小児科医の数が問題なのではないと言う話をしました。
それは病院が減っており、診療所(クリニック)は不変から微増になっていると言う事でした。
それ以外に、直近言われている事が小児医療の問題は「数より偏りである」と言う事です。
下のグラフを見てください。厚労省「医師・歯科医師・薬剤師統計(2024年)」の統計表には、15歳未満人口10万人あたりの「主たる診療科が小児科の医師数」が都道府県別に載っています(#1)
この表を見れば鳥取県は187.3と最も多く、千葉県は101.5と最も少ないと言う結果になりました。また、専門性資格の「小児科専門医」は、鳥取県が146.0と最も多く、山口県が58.0と最も少ないと言う結果でした。
小児科医の数では実に地域によって1.7倍の開きがあり、小児科の中でも専門医の数となると、実に地域によって3倍近くの開きがあります。
厚労省の小児医療提供体制(#2)の資料では、供給が「集約されずに薄く広く」になっている点が明示されています。具体的には、病院小児科で常勤小児科医が「1病院あたり2名以下」が約半数という記述があり、体制として脆弱になりやすい、つまり夜間・入院・救急を回しにくいことが示唆されます。さらに、主たる診療科が小児科の診療所が都市部に集中する傾向があるとも整理されています。
この2点を合わせると、「小児科医の数だけ増えても、都市側に偏っていたり、病院で少人数配置のままだと、地域の足りなさは残る」という構造が説明できます。
つまり小児医療の問題は、単純な総数不足というより、偏在+配置の薄さ、機能の担い手不足として現れやすい、という整理になるのです。
小児科混雑は無料が原因?
では次に2つ目の議題です。小児科混雑は無料が原因なのか?というものです。
結論から言うと、小児科混雑は無料である事が原因の一つとして言うことができます。
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