高学歴AV男優と考える「性教育」~日本の現状とAVのあり方~【前編】

今回はAV男優で知られ、国内学会でも登壇経験を持つ森林原人さんと対談しました。
今西洋介 2026.01.15
読者限定

今回は日本の性教育やAV(アダルトビデオ)などの性的コンテンツのあり方について、最難関国立中高一貫男子校の筑波大学附属駒場中学校・高等学校出身で、高学歴AV男優として知られる森林原人さんと対談しました。それぞれの専門分野からお話ができ、示唆に富んだ内容となりました。

2025年5月に刊行された書籍『大人も子どももマンガで学ぶ 性教育で子どもを性犯罪から守る本』をベースにしてお話を進めています。

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今回、私の書籍出版記念としてAV男優の森林原人さんと対談しました。森林さんはAV男優として、私は小児科医としてそれぞれの専門的知見から、子どもへの性教育やAVのあり方について考えました。森林さんのご紹介は以下の通りです。

ご本人提供

ご本人提供

森林原人(もりばやし・げんじん)
日本で最も活躍するAV男優の一人。出演本数2万本以上。最難関国立中高一貫男子校の筑波大学附属駒場高等学校を卒業後、AV業界に進んだ異例の経歴を持つ。最近は依頼を受けてのAV男優としての出演を減らし、性愛コミュニケーターとして活躍。性愛に関わる事象の経験、研究、考察を通して、性の本質は「つながり」であり、セックスとは「ふれあい」であると考え、その発信に力を注入している。

森林原人オフィシャルウェブサイトはこちら↓

Xアカウントはこちら→ https://x.com/AVmoribayashi?s=20 (※センシティブな内容が含まれています。閲覧にはご注意ください。)

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AV業界は斜陽産業

今西:本日はお忙しいなか、ありがとうございます。日本のAV(アダルトビデオ)は世界的に有名です。日本では、高学歴AV男優としても有名な森林さんですが、読者のなかには森林さんのことをご存知ない方もいらっしゃるかもしれませんので、まずは自己紹介からお願いできますか。

森林原人さん(以下、森林):森林原人と申します。1999年に男優としてデビューしてから約2万本以上のAV作品に出て、共演した女優はおおよそ1万2000人です。モザイクの向こう側に行きたいという衝動的な性欲に突き動かされて男優になりましたが、実は去年を最後に男優の仕事は辞めました。現在は、性愛コミュニケーターとして、性愛に関する発信や性に関する講演会、性の個別相談、性教育など性愛に関するコンテンツ作りに活動の軸足を移しています。自分の制作したコンテンツでは、今でも時々男優をやることがありますが、依頼されて行う男優の仕事は去年ですべて終了しました。 

今西:現在は、性愛コミュニケーターとしての仕事が中心なのですね。男優としては第一線を退いたということですか。

森林:そうです。年齢的にも40歳を超えてから体力の衰えを感じていたので、「そろそろ潮時かな」と。個人的な事情で辞めました。実は、僕はAV業界を斜陽産業だと思っています。

今西:AV業界って斜陽産業なんですか?

森林:ピークは過ぎたと思っています。なにせ、作品の10円セールとかが頻繁に行われているうえに、作品の発売当日に動画を無料でアップロードする海賊版ウェブサイトがあるのです。もちろん、著作権法違法です。FANZAなどのアダルト動画を提供する団体は問題視していて、このサイトを潰そうとしています。サイトがどこの国に所属しているかまではわかっているらしいのですが、その国の法律では運営元を開示しなくてもいいみたいで、結局誰なのか特定できないようです。海賊版マンガビューアサイトの漫画村のときには国全体で問題に取り組んでいましたが、AV作品となると国は助けてくれないようです。

著作権が守られず、正当な対価を手にすることができないとなると、AVメーカーは生き残りをかけてあれこれするわけですが、それが過去の作品の再編集など二次使用作品の乱発と経費削減です。当然、作品の質も下がるし、業界で働いている人の生活も不安定になります。そう遠くない将来、資金力のあるメーカーだけが生き残り、中小のメーカーはなくなるでしょう。結果、多様性はなくなり、性欲処理には使いやすいかもしれませんが、作品としての面白みはなくなるでしょうね。繰り返し観られる作品ではなく、ますます消耗品になっていきます。エロは千差万別だから面白いのに……。マーケティングが重視されるにつれ、人間の持つ想像力は発揮されなくなると思います。これではコンテンツビジネスとしては終わっています。自分でも売れる作品を作ろうとしましたが、売れませんでした。

今西:売れなかったのですか。 

森林:売れなかったんですよ。自分で資金を出して一から制作に携わることで、作品が売れるのはエッチなセックスがあるから売れるのではなく、マーケティングの要素が大きいと学びました。僕がこれまでやってきたことは現場で完結する仕事だったので、AVとはどうやって女性を欲情させるか、その欲情を見せて、どうやって男性をその気にさせるかに主眼を置くビジネスだと思っていました。しかし、今の業界では、映像の中身よりも消費者を購入へと導くことが重要で、広告代理店出身の人たちが広告、SNS、ダイジェスト動画などマーケティングの手法を使って儲けています。人間の欲情のスイッチが、出演者の感情の揺れ動きから見せる仕掛けに変わったのだと思います。 

今西: AV はマーケティングで売れるのですね。

森林: 業界にDMM(脚注1) が参入してからは、「この女優だと売れるよね」、「こういう内容が売れるよね」などとマーケティング中心の売り方になっていき、作品が金太郎飴のような画一的な内容になっていきました。映像のクオリティは上がりましたが、新規の作品が生まれにくい流れになっていきました。売れないかもしれない新しいものよりも、爆売れしないけれど確実に赤字にならないものがいいという考えですね。作り方だけでなく売り方にも新しい流れがあって、一般的にはよくある手法なのですが、「残り100本しか売りません」と言って、ユーザーを焦らせて買わせる売り方があります。 

  脚注1)現在はインターネットを使った多種多様なサービスを展開する企業だが、創業当時にはアダルト事業を行っていた。

今西:へー、興味深いですね。

森林:「売り切ったら配信しません」とか「売りません」とか言って。エロさでユーザーを惹きつけるのではなく、希少性で煽るのです。これまでの AV ではありえない手法です。でも、半年くらいたったら、「好評につき、もう一度配信します」って言って再度売り出すんですよ(笑)。

今西:完全にマーケティングですね。

森林:そうです。完全にマーケティング。だから、男優や監督が一丸となって「みんなが見たこともないエロいものにするぞ」、「女優の本気の反応を引き出すぞ」って頑張っていた時代はもう終わりです。心の揺れや動きが本物でなくてもマーケティングで売れてしまうのです。

今西:それが独立するきっかけになったのですか? 

森林:独立した理由の一番はやっぱり心身の老化ですね。体でいうと、反応速度が落ちて臨戦態勢になるのに時間がかかり過ぎます。心の方では、女優の意識と僕の気持ちが噛み合わなくなってきました。女優の質が変わってきて、自分を客体化するのが得意な女優に対して、僕が発情できなくなってきたのです。

今西:客体化とは具体的にどういうことですか。

森林:女優が自分を商品として捉えるようになったのです。僕が男優を始めた頃は 、「自分が本気で感じているのを人に見られるのは恥ずかしい」と思う女優が多くいました。僕は女優の感情の高まりや欲情でこちらも気持ちが高まるというスタイルなので、「私、撮影では本気で感じなくていいです。 でも、本気で感じたふりはできます」って言われるとガックリしちゃうんです。 グルメリポートでいえば、本当は美味しくなくても「美味しそうに食べられます」ってことです。男優側としては「本当に美味しいと思っているものを提供したい」という意気込みなのに、スカされちゃった感じです

それに、今の人たちは「売れるためなら何でもやります」という考えで、女優・男優ともに整形もいとわないです。僕の体感では、女優でまったく顔や体をいじっていない人は半分以下だと思います。今の女優は「私を商品として売ってください」なんです。SNS の普及により、多くの女性が「自分がどう見られているのか」という視点を持つようになったのでしょう。

今西:女性の価値観、特に女優の価値観が変わったということですね。

森林:大きく変わりました。昔もミスコンテストのように、人をランキング付けする仕組みはありましたが、今の時代はFacebookの「いいね」やInstagramのフォロワー数も然り、狭い範囲の狭い視点で日常的にランキング付けされるじゃないですか。自分がアップロードする写真によって様々な反応がもらえるので、「自分はこの路線でいいんだ」、「こういうキャラクターなんだ」って学ぶと、相対評価の方向に向かっていくのです。

今西:なるほど。AV の売り方の変化の影響も大きそうですね。

森林:そうだと思います。売り方がプロモーション主体になっていき、女優もプロモーションに加担しないと売れないので、自分の見え方をまざまざと意識せざるを得ないのでしょう。

AV男優の深刻なセカンドキャリア

今西:男優にとっても難しい時代になってきたということですね。ちなみに、男優のみなさんは引退後どのような生活をされていらっしゃるのですか? 

森林:業界は1980年くらいから始まっているので、男優のなかで一番の古株は業界歴でいうと45年くらいになります。そのベテランの方は現在、AV作品にモザイク処理をする仕事をしています。その世代より若くて、といっても50代の方は、時代の変化に合わせられている人もいて現役で男優をやっている人もいます。

今西:なるほど。引退後もAVに関係する業界で働いているのですね。

森林:その方以外で男優を辞めた人のなかには、業界と縁を切るというか、消息不明の人も結構います。

僕個人の体感ですが、世間一般の仕事をしている人と比べて、元男優の自殺率は高いと感じています。

今西:元男優の自殺率が高い?

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続きは、5062文字あります。
  • AV男優が取り組む性教育
  • 日米のセックス観の違い
  • 「AVはフィクション」と伝える難しさ
  • 後編へ続く

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