出産時のスコアが低いとお受験で不利は本当か?
皆様、こんにちは。
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ロサンゼルスでは1年で最も寒いと言われる12月と1月が終わり、日中の気温が25度を超える晴天の日が続き、早速Tシャツと短パンの生活に戻りました。
日本でというか、故郷金沢でのあまりに寒い感覚で、LAに帰ってもユニクロの超極暖を着て生活していましたから滝汗が出てしまいました。
しばらくTシャツ生活が続きそうです。
さて今回は、Xでも話題に上がった出産時のアプガースコアが子どもの受験に関係すると言う話題を取り上げました。自分も噂に聞いたことがあるものの、愛育病院の新生児科で働く後輩の新生児科医に聞いたところ「そんなの1度も言われたことがない」と言うので信憑性は疑問を持っていましたが、実情を調べるとそうでもないようです。
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出産時のスコアがお受験に影響?噂の真相
ちょうど先月、XやThreadsを中心に、ある話題に関して論争が起きていました。
それは「生まれた時のスコアが低いと、保育園や幼稚園、小学校の受験で不利になる」というものです。
きっかけは、ある母親の投稿でした。出産直後、助産師から「出血が多かったこと(1.4リットル)を母子手帳に書いてもいいですか?」と、どこか気まずそうに聞かれた—という体験談です。
この投稿は7722件のリポスト、14万いいねがつくほど、大論争が起きました。
この投稿をきっかけに、「出血が多いと赤ちゃんが酸素不足になる」「それでアプガースコアが下がる」「スコアが低いとお受験で落とされる」という話が一気に広まっていきました。
お受験に不利になるケースがあるってのが信じられない、やっば
本末転倒も甚だしい話です。
そもそもアプガースコアとは、赤ちゃんが生まれた直後の状態を評価するための点数です。心拍、呼吸、筋肉の緊張、刺激への反応、皮膚の色の5つの項目をそれぞれ0〜2点で採点し、合計10点満点で表します。生後1分と5分の2回測定するのが一般的です。
もともとは「この赤ちゃんに今すぐ医療的なサポートが必要かどうか」を判断するためのもので、将来の発達を予測するための指標ではありません。
ところがSNS上では、「10点満点じゃないとダメ」「1分値が低いと脳にダメージがあったとみなされる」といった過激な噂も飛び交いました。さらには「逆子だった」「早産だった」「出血が多かった」といった出産時の状況もマイナス評価されるという、昔から語り継がれてきた噂も一緒に蒸し返されました。
SNS上の反応は大きく分かれました。
「そんな選び方をする園には絶対に行かせたくない」
「出生時の状態で子どもを差別するなんておかしい」
という批判や嫌悪感を示す声が多かった一方で、
「私立には子どもを選ぶ権利があるのだから、リスクを避けようとするのは当然だ」
という冷めた意見もありました。また、
「昔からそういう噂はあったけど、実際に母子手帳を提出しても何も関係なかった」
という経験談を語る人もいました。
結局のところ、この騒動は「本当にそういう選別があるかどうかは定かではないが、もしあったとしたら最悪だ」という空気感の中で、都市伝説が再燃した形で収束していきました。「お受験文化の闇」「エリート選別が赤ちゃんの頃から始まっている」という皮肉交じりの声も多く見られました。
しかし、この騒動が浮き彫りにした問題は、単なる噂話では片付けられません。出産という、母親にとって命がけの体験に「点数」がつけられ、それが子どもの将来を左右するかもしれない—そんな不安を抱えながら子育てをしなければならないと不安に思っている親御さんもいるでしょう。そもそもアプガースコアとは何のためにあるのでしょうか。本当に子どもの将来を予測できるものなのでしょうか。そして、なぜこのような根拠のない噂がこれほど広まり、多くの親を不安にさせてしまうのでしょうか。
今回はそんな現状を大真面目に科学的検証を行ってみます。
国内の現状はどうなってる?
実際に、保育園や幼稚園、学校への入園・入学時に母子手帳の提出を求められた経験を持つ母親は少なくありません。
この母子手帳の取り扱いについて、国が「全国一律に提出義務がある」と定めた法令や通知は確認できていません。
しかし同時に、国の指針は園や学校が子どもの健康状態を把握するための情報収集を強く求めており、その際に母子手帳を「活用する」ことが有効だと明記しています(#1)。
つまり、法律で「絶対に提出しなければならない」わけではないものの、実際の保育・教育現場では子どもの安全を守るために母子手帳の情報が必要とされているのが現実です。
特に保育分野では、国の保育所保育指針の解説書において「生育歴に関する情報を把握するには母子健康手帳等の活用が有効」としながらも、活用する際には保護者の了解を求め、情報の取り扱いでは秘密保持義務があることに留意すべきと明示されています。
これは、園側が母子手帳の情報を参照することを国が想定している一方で、無制限に情報を取ることを認めているわけではなく、同意と守秘の重要性を強調していることを意味します。
では実際の現場ではどうなっているのでしょうか。
これは、自治体や施設によって対応は大きく異なります。
「母子手帳の提出」という言葉が使われていても、その実態は主に3つのパターンに分かれます。
1つ目は、母子手帳を持参して担当者に見せ、その場で確認してもらうパターンです。
2つ目は、予防接種のページなど指定されたページをコピーして提出するパターンです。
3つ目は、母子手帳を見ながら健康調査票や問診票に自分で転記するパターンです。
つまり、母子手帳の原本をそのまま預けるというケースは実際には少なく、多くの場合は必要な部分だけを確認または提供する形になっています。
具体的な自治体の例を見てみましょう。
大阪府高槻市では、認可保育施設の新規申込時に母子手帳が必要とされ、郵送で申し込む場合は「表紙、出産の状態、受診済健康診査、発育曲線、予防接種」のページのコピーを同封し、窓口に来る場合は母子手帳を直接確認するという方法をとっています(#2)。
千葉県袖ケ浦市では、提出書類として「母子健康手帳のコピー(予防接種実施欄)」を明記しています(#3)。沖縄県宜野座村でも同様に「母子手帳の写し(予防接種の記録)」が必要書類に含まれています(#4)。このように、いくつかの自治体では予防接種の記録を中心に、必要なページのコピー提出を求めています。
一方で、アプガースコアなど出生時の情報については、母子手帳に記載される様式が自治体によって異なる可能性があります。
入園時に直接アプガースコアの提出を求める例は多くありませんが、大阪府高石市の保育所新規入所問診票には「正常・異常(アプガースコア 点)」という記入欄があり(#5)、大阪府泉大津市の新入児個人面接票にも「アプガースコア 点」の記入欄があります。
これらは母子手帳そのものの提出ではありませんが、母子手帳を見て記入することが実質的に求められている形です。
学校への入学時、特に就学時健康診断でも自治体によって対応が分かれます。
兵庫県尼崎市や神奈川県川崎市では、就学時健診に母子健康手帳の持参を求めており、主に予防接種歴の確認のためとされています。一方で京都市は、母子健康手帳の提出は不要で、当日予防接種歴の記入が必要な場合のみ持参するという「原則不要」の立場を示しています。岐阜県下呂市では、就学時健診前にオンラインで事前調査を行い、母子手帳を手元に準備して既往歴や予防接種履歴を入力する仕組みになっており、持参ではなく参照して入力するという方法をとっています。
保育園や幼稚園など個別の施設レベルでも対応は様々です。
民間保育園では、母子手帳のコピーを園で保管すると案内しているところがあり、予防接種や健診受診状況の確認に使用するとしています。別の保育事業者は、入園時に「出生時の記録が分かる箇所」「公的健診ページ」「予防接種履歴」などのページをコピーして提出するよう求めており、必要な範囲をページ指定で限定しています。
医療機関附属の企業内保育園では、入園時の健康診断書のコピー提出を求めつつ、代替として「2か月以内の母子手帳の検診欄コピーでも可」としており、母子手帳が健康診断情報の代わりとして扱われています。
幼稚園、特に私立幼稚園でも対応にばらつきがあります。
ある私立幼稚園では募集要項で「母子健康手帳の予防接種欄のコピー」を提出書類として明示しています。
東京都内のある幼稚園では(園の名誉のため名前は伏せますが)、入園願書の裏面に母子手帳の指定ページ(直近の「保護者の記録」「健康診査」)のコピーを貼付することが求められており、母子手帳の一部が入園選考の提出書類として組み込まれています。一方で、予防接種記録などは母子手帳をその場で確認するだけで、コピー提出は求めない方針を示す園もあります。
こうした背景には、保育・教育現場が感染症対策、アレルギー対応、医療的配慮など、子どもの安全を守るためのリスク管理を担っているという事情があり、個人的には無理もないかなと言う気がしています。先ほど述べたように国の保育指針も、子ども一人ひとりの個別性に応じた保育のために健康・発達情報の把握を重視しており、母子手帳活用の有効性を認めていますし、学校でも健康診断を円滑に進めるための保健調査の仕組みが制度上位置づけられており、就学時健康診断票には既往歴や予防接種情報を記入する欄が設けられています。
しかし、「何でも提出を求めてよい」わけではありません。
健康や医療に関する情報は個人情報保護法上、要配慮個人情報として扱われ、原則として本人の同意なく取得してはならないとされています。法令で規定された項目以外を追加する場合は、目的を明示し、義務ではないことを示した上で理解と同意を得る必要があると指摘する専門家もいます。=
つまり、園や学校、自治体が母子手帳の情報を求める際には、「何のために使うのか(利用目的)」と「本当に必要な最小限の情報か(必要最小限性)」を明確にし、保護者への説明と同意を丁寧に行うことが制度的に求められているのです。
感染症対策のための予防接種記録の確認や、アレルギー対応のための健診情報の把握といった明確な目的がある場合と、出産時の状況など必ずしも日常の保育や教育に直接関係しない情報まで求めることとでは、必要性の程度が異なるのです。
実際SNSでも、いわゆる「お受験」の文脈で母子手帳の提出や出生時の情報が定期的に話題になっており(多分また噂になると思いますが)、一部の私立幼稚園で母子手帳の写し提出が求められることや、出産時の情報が合否に影響するという噂なども報じられています。こうした状況は、保護者にとって不安や疑問を感じる要因となっています。
国の指針が示す「保護者の了解」「秘密保持」という原則に立ち返り、入園・入学時にどこまでの情報が本当に必要なのか、提示確認だけで十分ではないのか、該当する子どもについてのみ聴取すれば足りるのではないか、といった点を、自治体や施設ごとに見直していくことが求められています。
親の立場からすれば、我が子の安全のために必要な情報を提供することは理解できる一方で、なぜその情報が必要なのか、どのように管理されるのか、といった説明がないまま広範な情報提供を求められることには不安を感じるのも当然のことです。
出産時のアプガースコア低いと将来に影響ある?
では、そもそも生まれた時のアプガースコアは将来の知能や発達、ついては学力にまで関係があるのでしょうか?
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