飲酒運転から子どもの命を守る海外のシステムとは

今回は今週報道された悲しい事故から考えます。
今西洋介 2026.09.25
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皆さん、こんにちは。

9月5回目の記事です。

シルバーウィークはいかがでしたでしょうか?自分は日本のシルバーウィークをすっかり忘れてしまって、日本の方々と普通に会議の日程を設定してしまい御迷惑をおかけしました。

こっちで過ごしていると日本の祝日を忘れてしまうので、Googleカレンダーに日本の祝日を再度設定することにしました。時差もあるし、色々と気をつけないといけません。

しかも11月からはサマータイムが終わり、時差が1時間ずれるので、さらに気をつけないといけないと思っております。

ふらいと先生のニュースレターは、子育て中の方が必要な「エビデンスに基づく子どもを守るための知識」をわかりやすくお届けしています。過去記事や毎月すべてのレターを受け取るにはサポートメンバーをご検討ください。

この記事には、交通事故で子どもを亡くした事例への言及があります。ご自身やご家族の飲酒が心配な方は、各地の精神保健福祉センター/アルコール問題の相談窓口(全国の保健所)につながってください。

シルバーウィークの9月20日午前11時すぎ、悲しい事故が起きました。

福岡市西区の県道で、68歳の男が運転する軽乗用車が、前を走っていた大型バイク3台に次々と追突しました。はね飛ばされたバイクの1台が、路肩にいた3歳の男の子に衝突しました。大分市から来ていた3歳の男の子は、意識不明のまま病院に運ばれ、翌21日朝、頭部の外傷で亡くなりました。両親と、バイクに乗っていた3人も病院に運ばれています。

男の呼気からは、1リットルあたり0.99ミリグラムのアルコールが検出されました。酒気帯び運転の基準である0.15ミリグラムの、6倍を超える濃度です。男は「前の晩に飲み、朝からもワインと焼酎を飲んでいた」「酒の影響でアクセルとブレーキを踏み間違えた」と話し、容疑は危険運転致死傷に切り替えられました。

福岡には、この事故を語るときに誰もが思い出す悲しい事故があります。

2006年8月25日の海の中道大橋の事故です。飲酒運転の車に追突された一家の車が博多湾に転落し、4歳、3歳、1歳の3人のきょうだいが亡くなりました。その事故から、今年8月でちょうど20年でした。Xでは「20年たって何も変わっていない」「厳罰化は無意味だった」「高齢者の飲酒運転はどうすれば止まるのか」という声が、事故の報道とともに広がりました。

SNSでは「飲酒運転は20年間で減ってないのではないか」との声も聞こえてきました。

自分は小児科医として、この事故を「ひどい加害者がいた」で終わらせたくありません。

まず日本の飲酒運転がこの20年で本当に変わらなかったのかをデータで確かめ、それでも残っている飲酒運転者はどんな人たちなのかを、海外と日本の研究から見ます。そのうえで、世界で効果が確かめられている対策と、日本がまだやっていないことを整理します。罪のない子ども達の命を守るためにも一度考えないといけない社会問題だと思っております。

第1章 厳罰化は「無意味」だったのか

20年で飲酒運転による死亡は減ったのか

まず事実確認からいきましょう。

警察庁「飲酒運転による死亡事故件数の推移」(平成11年〜令和7年)

警察庁「飲酒運転による死亡事故件数の推移」(平成11年〜令和7年)

平成11年から令和7年の警察庁による「飲酒運転による死亡事故件数の推移」を見てみましょう。

このグラフを見てみればわかる通りですが、日本の飲酒運転による死亡事故は、2000年に1,276件でした。しかし、2025年は125件です。20年余りで、ほぼ10分の1になりました。

同じ期間に交通事故死者全体も減りましたが、飲酒運転の減り方はそれを大きく上回ります。「何も変わっていないではないか」という感覚は、一つひとつの事故の悲惨さから来る実感であって、実は事実ではありません。むしろ、日本は飲酒運転を最も大きく減らした国の一つです。

この減少には、はっきりした転機があります。

それは1999年11月、東名高速で飲酒運転のトラックに追突された乗用車が炎上し、幼い姉妹2人が亡くなった事故です。2002年6月の道路交通法改正で、酒気帯びの基準は呼気1リットルあたり0.25ミリグラムから0.15ミリグラムに下がり、罰則が引き上げられました。

そして2006年8月の海の中道大橋の事故。翌年2007年の改正で、飲酒運転者本人の罰則がさらに重くなり、酒を提供した人、車を貸した人、同乗した人も処罰の対象になりました。海の中道大橋の事故の加害者には危険運転致死傷罪が適用され、懲役20年が確定しています。2014年には自動車運転死傷行為処罰法が施行され、危険運転致死は1年以上20年以下の有期刑となりました。

法律より先に、社会が変わった

ここで興味深い研究があります。

日本の交通事故統計を月ごとに解析した研究によると、死亡事故を起こした運転者のうち飲酒していた人の割合は、2002年の法改正より前、1999年末から2000年初めにかけて、すでに減り始めていました#1。研究者達はこれを、東名高速の事故の報道とそれに続く社会的な議論が法律より先に運転者の行動を変えた、と解釈しています。

2006年の海の中道大橋の事故のあとも、2007年の法改正を待たずに飲酒運転の割合が段階的に下がりました#2。

つまり、厳罰化だけが飲酒運転を減らしたのではありません。「子どもが死んだ」というニュースが社会の規範を動かし、法律がそれを追認して固定したと言えます。

2002年の法改正後には、16歳から19歳の若い運転者の飲酒関連事故が統計的に有意に減ったことも確認されています#3。法律は社会の変化を後戻りさせないための役割を確かに果たしたと言えるのです。

ただし、2010年代から減らなくなった

一方で押さえておきたい事実もあります。

トラック運転者の飲酒関連事故を1995年から2020年まで追った研究では、飲酒事故の割合は2001年から2011年ごろまで年13〜15%のペースで減り続けたあと、それ以降は減少が止まりました#4。2011年に事業用トラックの運転者にアルコール検知器での確認が義務づけられましたが、その後も減少傾向は確認できませんでした。これは裏を返せば、減りやすい飲酒運転は減り切り減りにくい飲酒運転が残った、ということです。

2025年の飲酒運転事故は2,283件で、飲酒していない場合と比べた死亡事故率は約6.9倍です。

さらに上のグラフを見てもわかる通り、年齢別の飲酒死亡事故を見ると、60代から70代で件数が多く、高齢層の飲酒運転は若年層と違って、深夜ではなく午後2時から夜9時ごろに多く起きています。

この「減っていない飲酒運転者」はどういった人達なのかを、次に見ていきましょう。

第2章 減っていない飲酒運転者は誰なのか

初犯ではなく、依存の問題

順調に減っているはずの日本のデータから見ます。

ちなみにですが、このニュースレターを平素より読んでいる方ならわかって頂けると思いますが、この第2章は「減り続けても未だ残っている一般的な飲酒運転者」の事をデータから言っています。今回の加害者の68歳について言及している訳ではありません。当然ですが、その加害者の詳細を知る由もないからです。

警察庁が2008年度に飲酒運転で免許を取り消され講習を受けた人を対象に行った調査では、57.6%が過去にも飲酒運転で取り締まりを受けた再犯者でした。

そして再犯者の約4割に、アルコール依存症の疑いがありました。

同じころ、久里浜アルコール症センターと神奈川県警察が、飲酒運転で免許取消になった200人を調べた調査でも約4割に依存症の疑いが見つかっています。

鳥取大学の研究者らによる住民調査でも、問題飲酒を見つけるスクリーニング検査の得点は、飲酒運転をしない人、したが検挙されていない人、検挙された人の順に高く、問題飲酒と飲酒運転の強い関連が示されています。飲酒運転で検挙される人の半数以上は初犯ではなく、その4割は、病気としての飲酒の問題を抱えているのです。

そして残念ながら過去に検挙されたという経験は、その人達の行動を変えていませんでした。

国もこれを認めています。

2013年4月から、飲酒運転で免許を取り消された人の講習には、10問の質問票(AUDIT)によるスクリーニングと、「ブリーフ・インターベンション」と呼ばれる短い動機づけの面接が組み込まれました。1日目に7時間、30日後の2日目に6時間という構成です。

方向は正しいと自分は思います。ただし、この講習で再犯がどれだけ減ったのかを示す評価は、自分の知るかぎり公表されていません。

交通違反者のその後を追った25の研究を統合した2023年のレビューでも、結論は同じです。違反歴のある運転者は、その後の違反と事故のリスクが高い群であり、飲酒運転への介入は「実施中は効くが、終わると効果が続かない」ことが繰り返し報告されています#5。飲酒運転を一度の過ちとして罰するだけでは、その人が次に飲んで運転することを止められません。

呼気1リットルあたり0.99ミリグラムという数字を、医師の目で見ておきます。これは血中アルコール濃度でおよそ0.2%に相当し、多くの人なら立っていられない濃度です。それでも車に乗り、運転を始められたということは、体がアルコールに強く慣れていた、つまり耐性ができていた可能性が高いことを意味します。耐性は、アルコール依存症の診断基準の一つです。

ちなみに、私の住むカリフォルニア州では、娘のバスケットボールクラブの保護者が打ち上げで普通に飲んで、朝運転して帰っていきます。米国ではアルコールを21歳以上の一般運転者は、血中アルコール濃度0.08%以上で「その事実だけで」飲酒運転(per se DUI)になります。米国ではユタ州(0.05%)を除く全州がこの0.08%です。ただし0.08%未満でも、蛇行運転や検問での言動など運転に支障が出ていると判断されれば、別条項の影響下の運転で起訴されます。0.05〜0.08%で有罪になる例は珍しくありません。酒臭い人が運転して帰る姿を見ているとハラハラします。

治療につなぐと再犯は減るのか

飲酒運転を医療の問題として扱った地域では、成果が出ています。

台湾では、飲酒運転の再犯者のうちアルコール使用の問題があると判定された231人を、検察から精神科病院に紹介して治療する仕組みが作られました#6。治療を4か月以上続けた人は、1年後の再犯率が有意に低くなっていました。

カナダのケベック州では、飲酒運転で検挙された3万7,612人を、逮捕時の状況とリスクの高さで分け、高リスクの人には集中的な介入を、低リスクの人には短い介入を割り当てています#7。5年間の追跡で高リスク群に集中介入を割り当てた場合、再犯の確率は57%低くなっていました。「誰にでも同じ罰」ではなく、「リスクに応じて治療を変える」ことが、再犯を減らす鍵でした。

日本には、これに近い制度が一つだけあります。

海の中道大橋の事故を受けて福岡県が2012年に作った飲酒運転撲滅条例です。飲酒運転で検挙された人にアルコール依存症の受診か指導を義務づけ、5年以内に再び検挙されれば受診命令を出せます。2020年には、基準未満の酒気帯びでも受診か教育を求める改正が行われました。全国初の罰則つきの条例です。

しかし、今回の事故はその福岡で起きました。条例があっても初めて検挙される前の検挙されたことのない依存症の運転者には届きません。日本で治療が必要なアルコール依存症の人は約80万人と推計されますが、受診しているのは4万人余りとされています。飲酒運転の背後にある依存症の大半は、検挙されるまで誰にも見つかっていないのです。

亡くなるのは、子どもだけではない

もう一つ、この事故が奪うものを書いておきます。

デンマークで、子どもを亡くした親2万1,062人を、子どもを亡くしていない親29万3,745人と比較しながら最長18年追跡した全国研究があります#8。子どもを亡くした母親の死亡率はそうでない母親の1.43倍、事故などの不自然な原因で子どもを亡くした母親では1.72倍、そして自殺や事故などの不自然な死は子どもの死から最初の3年間に3.84倍に達していました#8。父親でも、早期の不自然な死が1.57倍でした。

飲酒運転による子どもの死は、その子ひとりの死では終わりません。親の命も、その後の年月にわたって削り続けてしますのです。

では、世界では罰でも治療でも止まらない人に対して、何が効くと分かっているのでしょうか。日本がまだ導入していない対策は何なのでしょうか。続きでお話しします。

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