インフルエンザになった日に、親がまず決めること。抗インフル薬をもらうか、今夜どう見守るか
皆さんこんにちは。
9月最後の記事です。
今回もインフルエンザに関する記事です。
急な発熱、困りますよね。結局どうしていいかわからないので、色んな疑問が出てくるのは仕方のない事です。
今回も「インフルエンザに関して書いてほしい」というご要望も強かったので、執筆に至りました。よければ読んでみてください。
ふらいと先生のニュースレターは、子育て中の方が必要な「エビデンスに基づく子どもを守るための知識」をわかりやすくお届けしています。過去記事や毎月すべてのレターを受け取るにはサポートメンバーをご検討ください。
※夜間や休日に迷ったときは、電話で#8000をかければ小児救急電話相談につながります。けいれんが5分以上続く、呼びかけに反応しない、呼吸が苦しそう、という場合は迷わず119番です。
猛威を振うインフルエンザ
今年のインフルエンザは8月下旬に全国で流行入りし、9月中旬には東京都が注意報を出しました。1999年以降で2番目に早い流行入りです。国の入院調査では、入院した患者のうち10歳未満が占める割合が、前年同期の約20%から約37%に上がっています。
子どもが夕方に熱を出す。そして38度を超える。
これはありがちなパターンです。
親御さん達の頭に、疑問が何個か浮かぶはずです。
「今から小児科に行って、薬をもらうべきか」
「今夜、この子に何が起きうるのか」
よく聞かれるこの2つの質問は薬をもらうかどうかの判断は、その夜に親が何をするかを決めるからです。
この記事では、まず今年の流行が例年と何が違うのか、そしてまだワクチンを打っていない家庭は注射と点鼻のどちらを選ぶべきかを整理します。
次に抗インフルエンザ薬で本当に変わることと、変わらないことを、子どもを対象にした研究で確かめます。そのうえで、薬があってもなくても、発熱から2日間に家で親がすべきことを書いていきます。
第1章 今年の流行は、何が違うのか
早いだけでなく、子どもに寄っている
例年、インフルエンザの流行は12月に始まります。
今年は8月の第4週に、定点あたりの報告数が流行の目安である1.0を超えました。9月第1週には3.29になり、前年の同じ週の6倍以上です。首都圏では9月末の時点で、注意報の目安である10を超えた県もあり、学級閉鎖も増え続けています。
自分が気にしているのはその流行の中身です。
今シーズン流行しているのはA香港型(H3N2)のサブクレードKと呼ばれる系統です。
この系統は昨シーズンの世界的な流行で主流になり、それまでのウイルスと抗原性がずれています。大人はこれまでの感染で部分的な免疫を持っていますが、生まれてから数年しかたっていない子どもは、この系統に出会うのが初めてです。入院患者に占める10歳未満の割合が前年の20%から37%に上がったのは、この事情と重なります。A香港型は、H1N1型やB型に比べて高熱が出やすく、熱の立ち上がりも急です。
香港型の年に、小児科医が身構える理由
日本の小児科医には、H3N2が流行する年に特に警戒する合併症があります。
それは、インフルエンザ脳症です。
北海道で8シーズンにわたり89人の脳症の子どもを追った研究では、平均年齢は3.8歳、発熱から脳の症状が出るまでの平均は1.7日、37%が亡くなり、19%に後遺症が残りました#8。1998年から2002年に全国で報告された472例の解析では、発症のピークは1歳から2歳で、年齢が低いほど多く、5歳以下ではけいれんで始まることが多い一方、6歳以上では意識がおかしくなることで始まる例が多くなっていました#9。
昨シーズン(2025/26)の入院調査では、インフルエンザで入院した約2万5,000人のうち、10歳未満が約9,200人と4割近くを占めました。脳症は毎年、日本で数十から百数十例が報告されると推定されています#10。数としては多くありませんが、その多くが健康だった幼児で、発症の前日まで普通に遊んでいた子どもです。
脳症は、ウイルスが脳に入って起きる病気ではありません。感染に対する体の過剰な反応(サイトカインの嵐)が血管を傷め、脳がむくむ病気です#10。だから、この病気は「薬でウイルスを減らせば防げる」という単純な話になりません。
そしてもう一つ、恐ろしい合併症がインフルエンザによる心筋炎です。
残念ながら、5日前、名古屋のガールズアイドルプロジェクト「DIANNAプロジェクト」の8歳のアイドル練習生がインフルエンザ罹患に伴う心筋炎で亡くなってしまいました。記事を見るとSNSでは先週はじめまで、元気に活動する内容などが投稿されていたと書かれています。こんなに元気で若いお子さんが急に亡くなるなんて、インフルエンザは恐るべしです。
まだ打っていない家庭へ。注射か、点鼻か
流行が始まってしまった今、インフルエンザの予防接種に関して「もう打っても遅いのでは」と聞かれます。
しかし、遅くありません。効果が出るまで2週間かかりますが、流行は数か月続き、今年のワクチンは3株すべてが更新され、A香港型は流行中のサブクレードKに対応した株です。10月に入ったら、早めに予約してください。
そのとき親が迷うのが、注射(不活化ワクチン)か、鼻に噴霧する生ワクチン「フルミスト」かです。フルミストは2歳から18歳が対象で、両方の鼻に1回ずつ噴霧するだけで接種が終わります。日本では2024/25シーズンから使えるようになりました。
効果は、注射に劣りません。
生後6か月から59か月の子ども8,352人を、点鼻と注射に無作為に分けて1シーズン追った試験では、点鼻の群のインフルエンザが注射の群より54.9%少なくなりました#12。ただしこの試験で、1歳未満の子どもに点鼻後の喘鳴(ぜいめい、ゼーゼーすること)が増えたため、日本を含む各国で対象は2歳以上とされています。
41の試験、20万人以上を統合したコクランレビューでは、3歳から16歳の健康な子どもで、生ワクチンはインフルエンザにかかる割合を18%から4%に、不活化ワクチンは2歳から16歳で30%から11%に減らしました。7人に打てば1人、5人に打てば1人の発症を防ぐ計算で、どちらもよく効きます#13。
実際の流行の中での効き方も見ておきます。
英国では2013年から子ども全員に点鼻ワクチンを提供しており、2022/23と2023/24の2シーズンで、2歳から17歳の入院を防ぐ効果は67%と56%でした。この解析では、点鼻と注射で効果に差はありませんでした#14。
日本でも、2024/25シーズンに接種した子どもでは、未接種の子どもと比べて56.7%の発症予防効果が報告されています。日本小児科学会は2026年9月25日にフルミストの使い方に関する考え方を改訂し、2025/26シーズンの国内での有効性のデータを加えています。
ワクチンの本当の価値は、発症を減らすことより、重症化を減らすことにあります。
米国で、集中治療室に入るほど重いインフルエンザになった子どもを調べた症例対照研究では、ワクチンを規定回数打っていた子どもは、集中治療室への入室が74〜82%少なくなっていました#15。同じ米国で2010年から2014年の小児インフルエンザ死亡291例を調べた研究では、死亡を防ぐ効果は65%で、基礎疾患のない健康な子どもでも65%でした#16。米国の小児インフルエンザ死亡の約1割は脳症によるもので、脳症で亡くなった子どものうちワクチンを打っていたのは2割にすぎません#17。脳症だけを対象にした有効率の研究はありませんが、「重症と死亡を6〜8割減らす」の中に脳症が含まれていると自分は読んでいます。
ここのリンクに「経鼻弱毒生インフルエンザワクチンの使用に関する考え方〜医療機関の皆様へ〜」というページがありますので、詳しく知りたい方はこちらをご覧ください。
使い分けの自分の考えは、こうです。
13歳未満は注射なら2回の接種が必要ですが、フルミストは1回で済みます。注射を強く嫌がる子、2回目の予約が取りにくい家庭、きょうだいが多い家庭では、フルミストが現実的な選択です。
一方、重い喘息のある子、免疫が落ちる病気や治療中の子、家族に骨髄移植後などの高度な免疫不全の人がいる子、アスピリンを服用中の子は、注射を選んでください。副反応は鼻づまりと鼻水が主で、数日は風邪のような症状が出ることがあります。
第2章 薬で変わること、変わらないこと
インフルエンザの薬は効果があるのか?
もう一つ、気になるのはインフルエンザの薬は効果があるのか?という素朴な疑問です。
インフルエンザになった時に、病院に行くべきかどうかの判断の元になるのはまさにここでしょう。
抗インフルエンザ薬で最も使われてきたタミフル(オセルタミビル)について、子どもを対象にしたランダム化比較試験5本、2,561人の個人データを統合した解析があります#1。インフルエンザと確認された子どもでは、病気の期間が平均17.6時間短くなりました。喘息のない子どもに限れば29.9時間です。中耳炎になる危険は34%下がりました。一方、嘔吐だけが薬を飲んだ群で明らかに増えました。
そしてあまり知られていないのが、次のデータから来る事実です。
提携媒体
コラボ実績
提携媒体・コラボ実績



