「叱らない育児」は正しいのか?叱る・叱らないが子どもの発達に与える影響を読み解く

今回はよく聞かれる「叱らない育児」が子どもの発達に与える影響についてです。
今西洋介 2026.03.25
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皆さんこんにちは。

これで3月6本目です。
今月は5の倍数の日に記事を配信すると心に決めて、記事を配信し続けています。

そんな中、書くテーマをSNSで下さったり、ここのスレッドでも募集した時にテーマをいただけるのはとても嬉しいです。やはりテーマがあってのニュースレターなので。

登録者数も順調に伸びており、53000人を超えました。これからも育児の呪い(そもそも呪いかどうなのかも含めて)を科学的に検証していきたいと思います。

ちなみに、1章あたりの文章が多いと言う声もありましたので、今回から章の中に小さなサブタイトルを入れてみました。読みやすいようにこれからも工夫をしていきますのでよろしくお願いします。

ふらいと先生のニュースレターは、子育て中の方が必要な「エビデンスに基づく子どもを守るための知識」をわかりやすくお届けしています。過去記事や毎月すべてのレターを受け取るにはサポートメンバーをご検討ください。

親は叱るべき?叱らないべき?

さて、今回はとある子育て中のお母さんから頂いたご質問です。

「最近、叱らない育児が流行っているみたいですが、子どもにとって良いことなのですか?」と言う物でした。

最近、育児に関する情報が溢れ返っていますが、特にここ最近はおそらAIで書いたであろう育児情報がSNSでも溢れ返っていて、とてもカオス状態です。こんな中で育児に関する情報を取っていく親御さんにとってはなかなかハードモードですね。

自分も情報が多すぎて、時々ゲロ出そうになります(笑)

さてそんな中、叱らない育児という言葉を一度は耳にしたことがある方は多いのではないでしょうか。SNSでは「子どもは叱らずに育てるべきだ」という主張もあれば、「適度に叱ることこそが子どものためだ」という声もあり、自分も含めて親御さんの多くが何を信じればよいのか迷っているのが実情です。

この問題に対して、発達外来の現場で多くの親御さんと向き合ってきた立場から言うと、答えは「叱るか叱らないか」という二項対立にはならないと考えています。大切なのは、「どのように子どもの行動に向き合うか」というしつけの質そのものです。

今回は過去数十年にわたって蓄積されてきた先行研究を丁寧に紐解きながら、叱ることが子どもの心身に及ぼす影響と、科学的に支持されている望ましい関わり方について解説していきましょう。

「厳しく叱る」ことの害

体罰研究の半世紀が示すもの

「叱る」行為のなかでも、最も多くの研究が蓄積されているのは体罰に関するものです。テキサス大学オースティン校とミシガン大学は、子どもを叩く行為(スパンキング)に関しての過去50年間の研究を統合したメタアナリシスを2016年に発表しました(#1)。

この研究は16万人を超える子どもを対象としたものです。結果として、17の評価項目のうち13項目で統計的に有意な効果量が認められ、そのすべてがスパンキングと子どもの否定的な転帰(反社会的行動、攻撃性、精神的健康上の問題、認知的困難など)との関連が示されています。さらに注目すべきは、スパンキングの効果量が身体的虐待のそれとほとんど変わらなかったという点です。

つまり、結果から見ると、多くの親が「しつけ」と認識しているお尻を叩く行為と、虐待と呼ばれる行為との間には、明確な境界線を引くのは難しいのです。

また、この研究は幼少期にスパンキングを受けた大人に対する長期的な影響も検証しています。そして、子ども時代に多くスパンキングを受けた人ほど、成人期に反社会的行動を示しやすく、精神的健康上の問題を抱えやすいことが確認されました。さらに、自らの子どもにも体罰を用いる傾向が強く、体罰に対する態度が世代を超えて受け継がれていくという衝撃をの結果が浮き彫りになっています。

69件の前向き研究が描く一致した結論

そんなメタアナリシスから5年後、2021年にはロンドン大学の国際研究チームが、69件の前向き縦断研究を網羅したナラティブレビューをLancet誌に発表しました(#2)。このレビューは、2002年以降に発表された体罰に関する前向き研究を体系的に整理し、7つの主要なテーマを見出しています。

ここでは以下のような結論がでています。

体罰は子どもの問題行動の増加を経時的に予測すること。
体罰が良好な転帰と関連するエビデンスは存在しないこと。
体罰は児童保護サービスの介入リスクを高めること。
体罰の効果減衰を示す準実験的研究でも、体罰は時間とともに行動の悪化を予測すること。
体罰の効果量はいわゆる「用量反応関係」、すなわち頻度が多いほど害が大きくなる傾向を示すこと。

これらの一貫した知見を踏まえ、著者らは体罰が子どもにとって有害と結論づけています。

世界では2歳から4歳の子どもの約63%、およそ2億5000万人が日常的に養育者から体罰を受けているとされています。この数字を見ると、科学的なエビデンスと実際の育児の現状との間にはまだまだ大きな溝があることがわかります。

叱ることは子どもの脳をどう変えるか?

では、子どもを叱ることは彼らの脳にどのような影響を与えるのですか?

体罰が子どもの脳そのものに影響を与える可能性を示した画期的な研究が、2021年にハーバード大学から発表されました(#3)。この研究では、3歳から11歳の子どもを対象とした大規模研究のデータを二次分析し、スパンキングを受けた子ども40人とそうでない子ども107人の脳活動をfMRIと言う画像検査を用いて比較しました。ここでは、より重篤な暴力を受けた子どもは除外しています。

その結果、スパンキングを受けた子どもは、恐怖を示す顔の画像を見たとき、内側および外側の前頭前皮質の複数の領域で、叩かれたことのない子どもと比べて有意に強い神経活動を示しました。具体的には、背側前帯状皮質、背内側前頭前皮質、両側前頭極、左中前頭回などの領域です。これらはいずれも、感情の調節や脅威の検知に関わる脳の回路です。

少し難しい話になりましたですね。

この研究結果を、たとえ話で説明してみましょう。

我々の脳には、いわば火災報知器のような仕組みがあります。危険を察知したとき、この報知器が鳴って身を守る態勢をとるわけですが、スパンキングを経験した子どもの脳では、この報知器が過敏に設定されてしまっている状態に似ています。ちょっとした刺激でも大きな警報が鳴りやすくなるため、不安を感じやすくなったり、感情のコントロールが難しくなったりする可能性があるのです。

この研究を主導した研究者は、この知見が過去50年間のスパンキング研究を神経科学的に裏付けるものであると述べています。ただし同時に、体罰の影響はすべての子どもに一様ではなく、子ども自身には回復力があることも強調しています。

育児のアメとムチは有効?

では叱る行為に暴力が伴っていれば良いのでしょうか?

体罰だけでなく、大声で怒鳴る、侮辱的な言葉を使うといった「厳しい言葉による叱責」もまた、子どもの発達に有害であることが明らかにされています。ピッツバーグ大学の研究者らは、967の家庭を対象とした2年間の縦断研究を実施しました(#4)。対象家庭の約半数はヨーロッパ系アメリカ人、40%はアフリカ系アメリカ人で、大多数が中流階級でした。

この研究では、13歳から14歳の思春期における親の厳しい言葉による叱責と、素行上の問題と抑うつ症状といった子どもの問題行動との関連を分析しています。

その結果、母親・父親のいずれによる言葉の叱責も、その後の子どもの素行上の問題と抑うつ症状を増加させました。母親の方がこうした叱責をより頻繁に行う傾向がありましたが、どちらの親による叱責であってもマイナスの影響は同程度であったとの事でした。

さらに重要な事として、「親子の絆が強ければ厳しく叱っても問題ない」という通説は支持されませんでした。つまり、親の温かさは、厳しい言葉による叱責の悪影響を緩和しなかったのです。この結果から言うと、育児のアメとムチについてはどちらにせよ子どもにとっても悪影響であるという事です。

加えて、素行上の問題を抱える子どもが親の厳しい叱責を誘発するという双方向の関連も確認され、厳しい叱責が問題行動を引き起こし、問題行動がさらに厳しい叱責を引き出すという悪循環の存在が示唆されました。

思春期の子どもたちは自分のアイデンティティを形成する重要な時期にあり、親の言葉をそのまま受け止め、拒絶や軽蔑の表れとして解釈してしまう特徴があります。

自分のアイデンティティを形作っている時期にある若い心にとって、「お前はバカだ」「怠け者だ」といった言葉は、自己否定的な決めつけを行ってしまい、将来的にうつ病や不安症段戸の内在化障害のリスクを高めうるのです。

アジア人の教育は厳しいから当然?

では、ここで一つ押さえておきたい事があります。私も米国で育児する立場ではありますが、米国の人に言われるのが「日本とか韓国の育児は厳しいよね?」と言うものです。そのためか「厳しいしつけは日本やアジアの文化では当たり前であり、西洋の研究結果は当てはまらない」という意見を耳にすることがあります。

しかし結論から言うと、アジア圏で行われた研究も結論は西洋の研究と一致しています。

シンガポール国立大学を中心とした研究チームは、449名のシンガポール人若年成人(平均年齢22.57歳、52%女性)を対象に、幼少期の厳しいしつけと現在の行動上の問題との関連を調査しました(#5)。

シンガポールは欧米と比較すると厳格なしつけが社会的に許される文化圏ですが、それでも心理的攻撃や重度の体罰は子どもの外在化・内在化の両方の問題行動と有意に関連していました。

また、親への疎外感や父親とのコミュニケーション不全が、厳しいしつけと問題行動の間で媒介していたことも明らかにされています。

また、別の研究で2024年に発表された中国の研究を対象としたシステマティックレビュー(#6)では、厳しいしつけが親子関係や子どもの友人関係の質の低下と関連していることが報告されています。

特に注目すべきは、言語的なしつけの方が身体的なしつけよりも親子関係に対する効果量が大きかったという点です。これは、怒鳴ったり侮辱したりする言葉が、叩く行為以上に子どもの心に深い傷を残す可能性を示唆しています。

このように、アジアは元々育児が厳しいからアジアの子どもには不利な影響を与えないのではと言うのは通用しない事がわかります。

「叱らない」もまた万能ではない

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