子どもの気質や能力は母親由来?父親由来?
さて3月最後のニュースレターです。
もうあと2日で今年度も終わりだなんて信じられませんよね。
皆さんは今年度はどんな1年間でしたか?
自分はニュースレターもコンスタントに書けたのと同時に、2026年になってから2個の論文のアクセプトの嬉しい方向があり安堵したところです。特にうち1本はmajor revisionで訂正したのですが、そこから半年連絡が無かったのでダメかなと思ってましたのでよかったです。
来年度もたくさん研究をしていきたいです。そっちが本業なので。。
今回は頂いた質問に答えていきます。
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育児の中で様々な子どもを拝見していると、「よく寝る赤ちゃん/寝ない赤ちゃん」、「活発な赤ちゃん/大人しい赤ちゃん」など、それぞれ生まれた時点で一定の「気質」のようなものを持っているような気がしますが、このような「気質」や、将来の学力等につながる「能力」的なものは、父親と母親、どちらに由来する傾向があるか、何か研究はあるのでしょうか。「母親の学歴は子どもの学力に影響される」という言説をネットでよく見かけることから気になっています。もしよろしければ、ニュースレターで取り上げていただけると幸いです。
今回はこちらの質問を、このニュースレターのコメントから頂きました。
確かに現場で多くの子どもたちと接していると、生後まもない時期から、よく眠る子となかなか寝ない子、活発に動き回る子と穏やかにじっとしている子がいることに気づきます。
こうした生まれつきの性格の傾向は、発達心理学では「気質」と呼ばれ、半世紀以上にわたって研究が続けられてきました。
一方で、「知能は母親から遺伝する」「母親の学歴が子どもの学力に影響する」といった話がSNS上でたびたび取り上げられています。こうした話には、どこまで科学的な裏づけがあるのでしょうか。
今回は赤ちゃんの気質の成り立ち、知能と遺伝の関係、そして親の学歴と子どもの学力をめぐる研究を整理しながら、「父親と母親、どちらの影響が大きいのか」という問いを検証してみたいと思います。
赤ちゃんの「気質」はどこから来るのか
気質の半分近くには遺伝が関わっている
気質とは、生まれて間もない頃から見られる「反応の仕方」や「感情のコントロールのしやすさ」における個人差のことです。
たとえば、ちょっとした刺激で泣いてしまう子もいれば、あまり動じない子もいます。こうした違いには、ある程度の生物学的な土台があると考えられています。
では、気質はどのくらい遺伝で決まるのでしょうか。
この問いを検証するために、研究者たちは「双子研究」という方法を用いてきました。一卵性双生児(遺伝子が100%同じ)と二卵性双生児(遺伝子の共有が平均50%)を比較することで、ある特徴がどの程度遺伝によるものかを推定するやり方です。
多くの研究をまとめたSaudinoの報告によれば、気質に対する遺伝の影響は、おおよそ20〜60%の範囲とされています(#1)。怒りっぽさ、活発さ、人見知りの強さ、気持ちの切り替えやすさなど、さまざまな気質の側面で中くらいの遺伝的影響が確認されています。
ただし、別の研究では「なだめやすさ」や「人なつこさ」のような一部の気質では遺伝の影響がかなり小さいことも分かっており(#2)、すべての気質が同じくらい遺伝に左右されるわけではありません。
父親と母親、遺伝的な貢献は「ほぼ同じ」
ここでぜひ知っていただきたいのは、気質に関わる遺伝子のほとんどは常染色体と呼ばれる染色体の上にあるという事実です。人間には全部で23組の染色体がありますが、性別を決めるのはそのうちの1組(性染色体)だけで、残りの22組が常染色体です。常染色体上の遺伝子は、父親から1本、母親から1本ずつ受け継がれますので、両親からの遺伝的な貢献はもともと仕組みになっています。
Lemery-Chalfantらの研究グループは、アメリカの807組の双子を対象に、気質と家庭環境の関係を調べました(#3)。その結果、落ち着いた家庭と騒がしい家」では遺伝の影響の出方が異なることが分かりましたが、父親由来の遺伝子のほうが影響が大きいとか母親由来のほうが強いといった偏りは見られませんでした。
ここで興味深いのが、人間に近い霊長類であるアカゲザルを使った研究です。この研究では、19頭の異なる父ザルと50頭の異なる母ザルから生まれた赤ちゃんザルの気質を比較しました(#4)。すると、母ザルに育てられた場合、母親の存在が赤ちゃんの気質への父親由来の遺伝的影響をやわらげる、いわゆるクッションのような働きをすることが確認されました。つまり、遺伝子そのものの影響に父母の差があるというよりも、母親が主に育てることで見かけ上、母親のほうが影響力が大きいように見えている可能性があるのです。
きょうだいでも気質が違う理由
気質の研究でもう一つ重要なのは、同じ家庭で育ったきょうだいでも気質がまったく違うことがあるという発見です。先ほど紹介した双子研究のレビューでは、きょうだい間で共通する家庭環境、すなわち家族構成や経済状況などの影響は意外なほど小さく、むしろきょうだい間で異なる体験、たとえば生まれ順の違い、親の接し方の微妙な違い、それぞれ固有の友人関係や出来事などが、個々の気質の形成に大きく関わっていることが分かっています(#1)。
例えば「お兄ちゃんは慎重なのに、弟は冒険好き」といった現象は、遺伝子の組み合わせのランダム性に加え、こうした一人ひとり異なる経験の積み重ねによっても生まれるのです。
「知能は母親から遺伝する」は本当か
広まった「母親由来説」はどこからきたのか?
「子どもの知能は母親から受け継がれる」という話は、2016年頃から世界中のネットメディアやSNSで急速に広まりました。
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