「発達障害は親の育児のせい」説を怒りの徹底検証
さて11月2本目です。今年もあと2ヶ月ですね。
皆様、いかがお過ごしでしょうか?こちらもとても寒くなってきています。
今回はこちらの投稿を検証していきます。
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発端
先日の衆院選に立候補して落選されたとある医者の投稿が物議を醸しています。
全文を読んでも全て個人の感想レベルの話で、一つも科学に基づかない内容です。
その中でもあえて抽出してみると、このような記載がありました。
”はっきりいえば、発達障害なんて言われているものの99%は、すぐに治ってしまいます。その方法論もそれほど難しいものではなく、親が学ぶだけで劇的に変わってしまいます。しかし毒親はどこまでもこの子は発達障害だから仕方ないと、嘘をつき続けるのです。”
”そのことを指摘したときに親たちが行なう正当化は、目に余るものがあります。彼らはその子がもたらす症状の真の意味を知りません。その症状が何を訴えているかを考えません。親自身が適応能力や対処能力がゼロであることを理解できていません。「自閉症や発達障害は親の責任ではない」というドラマにも使われた殺し文句も大ウソなのです”
正直、彼のこの発言を聞いた時「またやってるわ」としか思いませんでした。過去には「障害児は親のせい」と発言した方で、こういったスタイルをビジネスとして発信してる方ですから今更何も真新しい事は思わないのです。
しかし、一方で自分のニュースレターで定期的に質問を募集してるQ&Aコーナーにこのような投稿がありました。
いつも楽しく拝読しております。発達障害について気になっていることがあります。インターネット上では「発達障害には育てかたは関係ない」という書き込みをよく目にしますが、とある知っている子供で発達障害及び境界知能との診断が降りている子がいまして、その子に関しては「生育歴や病気の治療(白血病です)の影響もある」と言われているようです。「発達障害には育て方は関係ない」というのはあくまで一般的な通常の子育てを行っている家庭の話なのでしょうか?例えば殴る蹴るなどの明らかな虐待であったり、厳しい闘病生活であったり、そういった子供にとってつらい経験が発達障害などに繋がるということはあるのでしょうか。お忙しいところ恐れ入りますがご教授いただければ幸甚です。何卒よろしくお願いいたします。
このご質問をして頂いた親御さんの反応をみると、とても胸が痛みました。これはしっかり科学に基づいて回答をしなければいけないと思い今回のニュースレター執筆に至りました。
この説を一般の方が言うのはまだしも、医師免許を持った人間が選挙中とはいえ公式に発言するのは怒りしか覚えません。
ということで、親の育児と発達障害は関係があるのか、虐待や病気などによって発達障害は増えるのか。怒りの科学的検証を始めたいと思います。
発達障害児の親の苦悩
私の発達外来はおおよそ3割がいわゆる「発達障害」の診断を受けた、あるいは疑いのある子ども達です。自閉症の子は目を合わせてくれず診察するにも一苦労です。多動の子は診察室を駆け回り、違う診察室へ行って行方不明になる事があります。またダウン症の高校生に、真剣に恋愛相談をされたりもします。
そういった意味で、発達が気になる子どもを持つ親御さんの苦悩は日々の発達外来でひしひしと伝わってきます。
我が子が発達障害と診断されたくなくて、小学1年生の普通学級にこだわり1年経ってやはり子供が辛そうと泣きながら受診するお母さん。
集団生活が始まり、他のお母さんに「なぜあの親は注意しないの?」と陰口を叩かれ外来で泣き出すお母さん。
私の外来では色んな涙や笑顔をたくさん診てきました。
ここで一つのアンケート調査を見てみましょう。
令和4年に国立障害者リハビリテーションセンターが、18歳未満の発達が気になるお子さんを養育している保護者167名を対象に取ったアンケート調査です(#1)
ここでは、発達障害の診断をすでに受けている子や反対に診断を受けていない子が含まれています。なので、様々な立場での葛藤が含まれていることに注意が必要です。では質問の回答を見ていきましょう。
子どもについて周いの評価や目が気になるか?という質問にまたもや半数の人が気になると答えています。
これらを見ていると、発達が気になる子どもを持つ親御さん達は子どもの特性から周囲の評価や目が気になり、大きな悩みを持ち、その精神的な負担は大きいことがわかります。
発達障害に育児は関係ある?
この調査でもう一つ紹介すると、発達の気になる子どもを持つ親で子育ての方法が分からないと答えている人は半数を超えています。それだけ、特性のある子どもを持つ親御さんは育児そもそもに不安を感じていることがわかります。
では、ご質問にもあった、育児そのものが子どもの発達障害を生み出しているのでしょうか?
「自分の育児で我が子を発達障害にしてしまったのではないか」
これは多くの当事者の親を非常に苦しめている疑問です。
結論から言うと、現在この説は明確に否定されています。