アフターピルを薬局で買える世界で、15歳以下の子どもにどうすべきか

今回は差し迫ったこの問題を皆さんと一緒に考えます。
今西洋介 2025.06.13
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読者の皆様、こんにちは。今回で今月も4本目ですね。

前回の三女の家庭内事故の記事は本当に多くの方に読まれていて、とてもありがたい事です。あの記事だけで200名を超える方に登録頂き、もうすぐ前人未到の4万人達成です。日頃から読んでいただいている方々には本当に感謝しかありません。

さて今回は、最近話題の緊急避妊薬のOTC化です。OTCとはOver The Counter(OTC)の略で、薬局やドラッグストアで医師の処方箋なしで直接購入できる医薬品、つまり市販薬のことを指します。

つまり今までは緊急避妊薬を使用する際には、医療機関に受診して医師の処方箋が必要になっていたのですが、それが近くのドラッグストアで買えるようになるという制度変更があるようです。

それに対しては当然良いことではあると思うのですが、小児科医としては「10-15歳の子どもにどうするのか問題」を考えなくてはいけません。

今回はこれをテーマに議論していきたいと思います。

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緊急避妊薬が身近にある世界

緊急避妊薬がドラッグストアに売っている世界と聞いて、皆さんはどんな世界を思い浮かべますか?

緊急避妊薬と聞くと、自分が思春期の娘達を持つ一人の父親の立場から正直ドキッとします。

ある日突然、家に置いてあるとビックリしますよね、親としては。米国ではこれが普通にあり得る世界です。

私の職場の米国の大学には学生が1番集まる場所があります。それは1階に売店、2階にはレストランや書店などが連なる場所です。そんな中にポツンと一見変わった1つの自動販売機があります。

そこにはBirth control and contraceptivesと書かれています。contraceptiveとは避妊薬という意味ですから、緊急避妊薬が売っている自動販売機になります。

中を見ると「EContra One-Step®」と書かれており、いわゆる緊急避妊薬(アフターピル)です。Levonorgestrel Tablet, 1.5 mg"とあり、主成分が緊急避妊薬として一般的に使われるレボノルゲストレルであることが示されています。避妊に失敗した場合や、予期せぬ性交があった場合に、意図しない妊娠を防ぐ目的で服用するものです。

また家の近所には米国でお馴染みのドラッグストア、いわゆる「CVS」があります。

ここでは一般的な薬も売っていれば、お菓子や日用品なんでも売っています。日本のドラッグストアとほぼ同じですが、米国のこのCVSの販売されている薬の種類は比べ物にならないほど非常に多いです。

このCVSの棚を見てみると普通に緊急避妊薬が棚に置いてあります。

下の写真のAfteraは緊急避妊薬のジェネリック薬品です。34.99ドルですから日本円にすると5028円ですので、米国の物価状況にしてはとても安価な薬です。

JulieはCVSで販売されている別のブランドで、こちらはジェネリックではないので、60ドルで日本本円にすると8600円です。

米国で1番commonというか代表的な緊急避妊薬は「plan B」ですが、これは売り切れでした。こちらは50ドルですので日本円で7200円です。

プラスチックケースに入っていますが、これをケースごとレジに持っていけば誰でも買えます。これらの薬は、年齢制限なく、誰でも処方箋なしで薬局の棚から直接購入できます。多くの場合、身分証明書の提示も不要です。

CVSにはセルフレジもありますので、正直、誰でも誰に見られる事なく買えます

CVSの店員に聞くと「他の風邪薬などに比べれば当然売れないけど、需要はあります。つまりそれなりに売れています」とのことでした。

このように米国は緊急避妊薬に対してまさに「フリーアクセス」の状態なのです。ではこれは世界共通なのでしょうか?他の国はどうなっているのでしょう?

緊急避妊薬とは?

これらを解説する前に緊急避妊薬について簡単に解説をしましょう。

緊急避妊薬(Emergency Contraceptive Pill, ECP)は、避妊に失敗した場合や無防備な性交があった場合に、意図しない妊娠を防ぐために使用される薬です。主に排卵を抑制または遅らせることで効果を発揮します。

ここで大切なのは、これは決して中絶薬ではなく、すでに成立した妊娠を中断させる効果はありません。よく誤解されますが、経口避妊薬は経口中絶薬とは異なるものなのです。

米国で入手可能な緊急避妊薬に、「レボノルゲストレル錠(Plan Bなど)」と「ウリプリスタル酢酸エステル錠(ella)」の2種類があります。

このレボノルゲストレル錠 (Levonorgestrel Pills)は市販薬として処方箋なしで購入できる、最も一般的なタイプの緊急避妊薬です。代表的なブランド名は先ほど紹介した通り、Plan B One-Step, Take Action, My Way, Aftera, Julieなどがあります。購入方法としては薬局やスーパーマーケットで年齢・身分証明書の提示なく購入可能、いわゆるOver-the-Counterで通称OTCです。

この薬の主成分であるレボノルゲストレルは黄体ホルモンの一種です。主な働きは、脳下垂体に作用して排卵を抑制、または遅らせることです。精子が卵子と出会うのを防ぎます。その他、子宮内膜の変化や子宮頸管粘液の変化を起こす可能性も指摘されていますが、排卵の抑制が最も重要な作用とされています。

無防備な性交後、72時間(3日)以内に1錠を服用します。一流医学雑誌Lancetに1998年に報告された研究では、このレボノルゲストレル錠を72時間以内に服用した場合、予測される妊娠数を85%減少させたと結論付けています(#1)。

また、2002年に発表されたWHOが主導した重要な研究で、以前の研究データを統合し解析したもの(#2)でも、レボノルゲストレルの有効性が再確認され、72時間以内の服用で高い効果があることが示されました。この研究は、別の緊急避妊薬(ミフェプリストン)との比較を行いましたが、レボノルゲストレル単独の有効性データも提供しています。

また、服用が早ければ早いほど効果が高いことが示されています。24時間以内の服用での有効率は95%に達するとされています。

これらは先ほどの#1の1998年の最初の研究データに加えて、その後の複数の臨床試験データを統合・再解析したメタアナリシス(pooled data analysis)から導き出されたものです。WHOが支援した2つの大規模なランダム化比較試験の統合分析なのです(#3,4)

副作用としては一時的なものがほとんどです。嘔気、嘔吐、頭痛、眩暈、不正出血、次の月経周期の乱れなどがあります。

そして、もう一つが米国でも処方薬が必要なタイプの緊急避妊薬で、ウリプリスタル酢酸エステル錠 (Ulipristal Acetate Pill)と言われるものです。代表的なブランド名にella®があります。

ウリプリスタル酢酸エステルは、選択的プロゲステロン受容体調整薬(SPRM)です。レボノルゲストレルと同様に排卵を抑制・遅延させますが、より排卵直前のタイミングであっても効果を発揮しやすいとされています。

無防備な性交後、120時間(5日)以内に1錠を服用します。先ほどのOTC化されたものより長い期間である事が特徴です。5日以内であれば、服用タイミングが遅くなっても効果が落ちにくいのが特徴です。レボノルゲストレルよりも高い効果が期待でき、特に性交後72時間~120時間が経過した場合には第一選択肢とされています。

このように2つの製剤がありますが、米国では主には性交後72時間以内か72時間〜120時間かは一つの判断材料になっているようです。

「緊急避妊薬が若者のコンドーム使用を減らす」はデマ

15歳未満の緊急避妊薬を論ずる前に、まず大事な検証をひとつ。

緊急避妊薬の慎重論者の中に

「緊急避妊薬を使うと若者はコンドームを使わなくなるのではないか。さらに性感染症が増えるのではないか!けしからん!」

という事を主張するおじさんがいますが、これは明確な誤りで過去の質の高い研究結果から検証されています。

これは米国疾病予防管理センター(CDC)の報告に含まれるシステマティックレビューが注目されます。このレビューでは、緊急避妊薬を事前に提供された成人女性や思春期の女性を対象とした17の研究が分析されました。

その結果、緊急避妊薬の提供を受けた群では、緊急避妊薬の使用頻度はいずれも2倍から7倍に増加したものの、定期的な避妊法(コンドームを含む)の使用パターン、そしての性感染症の発生率については、ECPの事前提供を受けなかった群との間に統計的に有意な差は認められませんでした(#5)

この研究により、いかにそのおじさん達の主張が間違っているかという事がわかります。

これには重要な示唆がありますが、大事なのは緊急避妊薬へのアクセスの容易さだけでなく、そのアクセスがどのような情報提供やカウンセリング体制のもとで提供されているかも重要です。

つまり、単にアクセスを容易にするだけでなく、それが適切な情報提供や相談機会とセットになっているかどうかが、行動変容の方向性を左右する可能性があるのです。

そういった意味では、日本でも緊急避妊薬をフリーアクセスにするのは良いですが、情報提供の仕方を考えないといけないなと感じています。

緊急避妊薬の各国の現状

ここまでは緊急避妊薬について解説してきました。

おそらくご存知の方も多いと思いますが、現状の日本では薬の入手には医療機関で発行される処方せんが必要です。日本で認可を受けて使用できる緊急避妊薬は、「ノルレボ」「レボノルゲストレル(ノルレボのジェネリック医薬品)」の2種類です。価格は6000円~2万円ほどとなかなかの高額なのも事実です。

そして今日本でも緊急避妊薬のOTC化の議論が進んでいて、近日中にそれが認められる可能性が高いです。

実際、市民団体は「薬剤師の面前服用が不要」「年齢制限・親の同意が不要」とする緊急避妊薬の販売体制を求めたが、評価検討会議の多くの委員は年齢制限や親の同意を不要とする提案には賛同しつつ、スイッチOTC化には薬剤師の面前服用を条件とするよう求めています。

さてここから小児科医として本題に入りますが、11-15歳どうするか問題が小児科医のお偉いさん方の中で議論が起きています。

現在日本では性交同意年齢が16歳という事もあり、15歳以下に対しては別枠の枠組みが必要ではないかという指摘はあります。つまりその年齢に対しては保護者などの同意が必要ではないかという指摘です。一方で市民団体は年齢関係なくフリーアクセスにするべきだと主張しています。

年齢関係なくフリーアクセスにすべきという意見には個人的に「条件付き賛成」ですが、それに関しては後で述べる事にします。

では海外諸国はどうしているのでしょうか?まず海外諸国の現状をおさえていきたいと思います(#6)簡単にまとめると下の表になります。

調査は2021年9月から2022年1月にかけて、日本を含む8カ国を対象に、公開されているデータを用いて行われました。調査対象となった8カ国(日本、イギリス、ドイツ、フィンランド、インド、アメリカ、シンガポール、韓国)すべてで、レボノルゲストレル(LNG-EC)が医療用医薬品として承認されています。日本を除く7カ国では2000年前後に承認されています。

日本では緊急避妊薬の価格が平均約15,000円であるのに対し、他の7カ国では約6,000円以下です。

イギリス、ドイツ、フィンランド、インドでは、薬剤師の関与のもとで一定の説明を受けて購入する必要がありますが、アメリカでは薬剤師の関与なしに購入が可能です。

イギリスでは薬局での購入に16歳以上という年齢制限がありますが、その他の国では年齢制限がありません。

未成年の対応としては、ドイツでは14歳未満の未成年者に薬を渡す際には親または保護者の同意書が必要とされています。イギリスでは16歳未満の場合、NHS(国民保健サービス)の病院などで無償で提供されます。

ちなみに、イギリス、ドイツ、フィンランド、アメリカ、シンガポールでは、緊急避妊薬の悪用や乱用に関する公的な報告資料はありませんでした。

このように見てみると完全にOTC化、つまりフリーでアクセスできる国はアメリカだけです。その他は多くが薬剤師の関与が必要となっています。

未成年に対してはドイツが14歳未満で親の同意が必要、イギリスは薬局で買えずその代わり病院で無償で提供するシステムが確立されています。

なので先進国でみると、まだ統一されていないのが現状かと思います。

15歳以下にどうするか問題

ここで出てくるのは15歳以下の子どもに緊急避妊薬へフリーアクセスを確保すべきかという問題です。私は先ほど、この問題に関して「条件つきで賛成」というのを述べました。

産婦人科などの医療機関や、オンライン診療を通じて緊急避妊薬の処方を受ける場合、法的には保護者の同意や同伴は必ずしも必要ありません。 世界保健機関(WHO)も緊急避妊薬へのアクセスに年齢制限を設けるべきではないとの見解を示しています。

一方、15歳以下に対しては「保護者の同意が必須にすべき」と論ずる人も専門家の中にいます。もちろん15歳以下の子ども達は発達途上であり自分で判断する能力がまだ未熟であったり、薬を服薬するルールを守れなかったりと懸念事項があるのは嫌というほど承知です。実際に医療現場では15歳以下の子どもの施術や処置などに対しては全例で保護者の同意を取得しています。

一方で、それに反対してフリーアクセスを主張する人たちの主張も理解できます。

15歳未満の子ども達が親の同意が必須になった場合にアクセスが悪くなり(言い換えると緊急避妊薬を取りに行くハードルが高まり)、結果として妊娠継続となってしまい10代前半では体の負担が大きい人工妊娠中絶や未成年分娩に繋がってしまいます。これは臨床の現場で嫌というほど多く見てきました。

なので、15歳以下の子ども達にフリーアクセスを提供する事には私は「条件付きで賛成」という立場です。

それは、小児科医の立場からしてもっと大切な理由があるからです。

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