「赤ちゃんの目に母乳は効くわよ」という祖母の言葉

今回は育児トンデモ回での解説です。
今西洋介 2025.09.15
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皆様、こんにちは。9月も半分が終わりましたね。もうあと3ヶ月半で今年も終わりだなんて信じられません。

今回は育児トンデモ回です。

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育児トンデモ質問募集はじまる

このニュースレターにはスレッド(掲示板)機能があり、そこでサポートメンバー向けに定期的に質問を募集しています。もちろん個人的な医療相談には答えられませんが、育児をしていると外来で聞くまでもないけど何か気になるなという疑問ありますよね。大体3ヶ月毎に行っていたのですが、質問が溜まっていた事もあって前回から半年ぶりも空いてしまいました。もちろん全てにはお答えできる訳ではないのですが今回前回の第9回の質問が2/3ほど終了したので、新たに質問募集を開始しました。

今回は山田ノジルさんとの対談の影響をもろに受けて、「育児トンデモ」をテーマとして募集としました。

質問は以下から受け付けていますので、皆さんの周りで「これ聞いたことあるけど、流石に怪し過ぎないか?」というテーマを受け付けています。サポートメンバーの方は気軽に書き込んでみてください。

まだスレッドに質問が十分に集まっていないので、今回はサンプルとして以前Xでご質問頂いた「目母乳」を取り上げます。まずは以下の質問を見てきましょう。

赤ちゃんに目母乳

いつもTwitterでの発信ありがとうございます。1ヶ月の赤ちゃんを育てる母親です。最近目ヤニがひどくて病院を受診しようか迷っています。その時に祖母から「目に母乳をさせば治る、母乳には抗菌作用があるので目薬の代わりに使うことはできるわよ」「私も子供の目にゴミが入った時によくやってました」と言われました。これは本当ですか?科学的に証明されていますか?危険であればその危険性もあげてほしいです

ご質問ありがとうございます。私は小児科医で日々たくさんの保護者と接する中で、赤ちゃんに関する様々な質問を受けます。確かにこの赤ちゃんの目に母乳をさすのは以前聞いたことがあります。

この方法は、古くから伝わる民間療法、いわゆる「おばあちゃんの知恵」として、広く実践されてきました。

「おばあちゃんの知恵」的なものは個人的に素敵だなとは思っています。それは医学がまだ発展していない頃に一般の人達が考えた実用的治療法です。しかし、医学が進歩していく中で、それら古くからの知恵は科学の光で照らされ、その本当の効果とリスクが明らかになっています。

なので「トンデモ育児」回と名付けておいてですが、誤解されたくないのはこのシリーズの目的はあくまで伝統的な方法を単に否定することではありません。

なぜ「母乳を目薬代わりに」という考えが生まれたのか、その科学的な背景を探りつつ、最新の海外の研究が示す効果の限界と、そして何よりも知っておいてほしい重大なリスクについて、一つひとつ丁寧に解説することです。

母乳の点眼効果を検証

結論の方から先に検証をしますが、実際に母乳の点眼は効果があるのでしょうか。

しかし、その結果を詳しく見ていくと、単純に「効果あり」とは言えない、複雑な実情が浮かび上がってきます。

2021年に日本の研究チームによって『Acta Paediatrica』という医学雑誌に発表された非劣性デザインのランダム化比較試験です(#1)

この研究では、目ヤニのある生後180日以下の乳児312人を対象としました。そして、赤ちゃんたちをランダムに2つのグループに分けました。

一方のグループ(155人)には「母親自身の母乳」を点眼し、もう一方のグループ(157人)には比較対象として「アズレンスルホン酸ナトリウム水和物0.02%点眼液(市販の抗炎症点眼薬)」を使用しました。

7日間治療を続けた結果、症状が改善した赤ちゃんの割合は、母乳グループで76.8%、点眼薬グループで75.8%と、両グループ間に統計的な差は見られませんでした。

この結果から、研究チームは「母乳の点眼は、市販の点眼薬と比べて効果が劣らない(非劣性である)」と結論づけられ、生後6ヶ月未満の乳児の目ヤニに対する初期治療として検討できる可能性を示唆しました。

これだけを見ると、母乳点眼は効果があるじゃないか!と勘違いされるかもしれませんが、科学の世界では、一つの研究結果を多角的に吟味することが非常に重要です。

必ずしも、こうとは言い切れない現状があるのです。

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