小さな命が消える時に〜日本のペリネイタル・ロスを考える〜

今回は、赤ちゃんの死、ペリネイタルロスについて考えます。
今西洋介 2025.10.28
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皆さんこんにちは。サクサク配信しましょう。

少し秋も深まり、だいぶ涼しくなってきたかと思います。

こちらも夜は長袖と長ズボンが必要になってきました。

昼はTシャツですけどね。。というより男性は上半身裸で走ってますが。。

さて今回は赤ちゃんの死について考えます。

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小さな我が子を失うということ

ペリネイタルロスは本当に深刻な問題で、このお父さんも小さな靴下を我が子の棺に入れられたのは咄嗟な事だったのだと思います。

この記事を読んで、やはり他人事じゃないなと感じるわけです。これは医療者としてはもちろん、個人的にも他人事ではありません。

皆さんは「ペリネイタルロス」という言葉を知っていますか?

ペリネイタルロス(perinatal loss)とは、妊娠中から出産直後の時期に赤ちゃんを亡くすこと全般を指す言葉です。

妊娠21週までの流産、そしてお腹の中で亡くなる死産、そして生まれてから亡くなる新生児死亡が含まれます。もちろん医学的理由による中絶も含まれます。

では、ペリネイタルロスは何が問題なのでしょうか?

それは強い悲嘆・罪責感・無力感・PTSD様症状・うつ・不眠などが起こり得る事が知られているからです。

これは母親だけでなく、父親にも起こる事が知られています。

さらには、このペリネイタルロスは深刻化すると、次回妊娠や育児への不安、カップル関係や家族機能にも影響します。

しかし日本ではこのペリネイタルロスへの対応が不足しています。

2025年4月、名古屋市立大学を中心とする研究チームが発表した大規模調査では、流産を経験した女性の離職者が年間1万人を超え、経済損失は466億円に及ぶと報告されました(#1)。この研究では、喪失体験後の職場復帰支援や心理的ケア体制の不十分さを強く問題視しています。

また、2024年に報告された厚生労働科学研究「流産・死産を経験した女性等への支援実態調査」では、「心理社会的支援が実施されている」と回答した自治体は全体の約38%にとどまり、残りの多くでは「担当者が不在」「医療機関との連携が未整備」とされています。

さらに、行政窓口間の情報共有が不十分で、死亡届提出後に母子保健関連通知が届くなどの二次的ストレス事例も報告されています。

日本ではまだまだペリネイタル・ロスに悩む人たちに十分な支援ができているとは言えないのです。

現場でも課題感のあるペリネイタル・ロス

ペリネイタル・ロスの対応に課題があるのは、自治体の窓口だけではありません。

私は小児科医の中でも新生児を専門とする医師です。

世間ではいわゆる「新生児科医」と呼ばれています。

主には新生児集中治療室(NICU)で働いて、多くの赤ちゃんの命と向き合い、そしてご家族と関わってきました。外来ではNICUを卒業した子ども達を多くは就学時までフォローしてきました。(中には成人期まで)

あまり知られていませんが、NICUには総合周産期母子医療センターと地域周産期母子医療センターの2種類があります。総合周産期ではより包括的なケアが必要な子どもを診て、地域周産期ではより地域に根ざした新生児医療を展開しています。これは、どちらが偉いとかそういう問題ではなく、純粋に役割が異なります。

私は総合周産期母子医療センターでは石川県で2年間、大阪府で10年間の合計12年間勤務し、地域周産期母子医療センターには大阪府で2年間勤務していました。

新生児医療の発展は目まぐるしいものがあり、呼吸器や保育器など医療機器の進化も素晴らしいですし、赤ちゃんに対するケアなんかも20年前とは全然違います。そのおかげでたくさんの命が救われるようになりました。

しかし、そんな周産期医療が発展してきても、一定数救われない命があるのは事実です。

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