【対談】育児のトンデモ商法を考える・山田ノジル氏
皆さんこんにちは。今回は大人気対談記事です。
今回の対談は、世の中のトンデモを追いかけるフリーライター・山田ノジル氏が自身の作品について語り、育児における「自然派」の落とし穴やマルチ商法の巧妙な手口について深く掘り下げました。子育て中の親が直面する情報過多の時代において、どのようにして健全な判断基準を持つべきか、具体的な事例を交えながら語り合いました。
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山田ノジル氏との対談風景。ノジル氏は鳥のためzoomの焦点がボケるようで、ツーショット写真が枠からはみ出ていますが、ご了承ください

今西: この本はいつ発売になったんですか?
山田ノジル氏(以下 ノジル): 本はですね、7月10日に発売になりました。もう2ヶ月くらい経っていますね。
今西: ありがとうございます。ところで、ノジルさん、この本はどういうことを伝えたくて、何を目的として書かれたんですか?
ノジル: そうですね。私は医者でも研究者でもない、ただの一般人なので、何かをジャッジする立場ではありません。世の中で「こういうことが起こっていますよ」と伝える立場なんです。ライターとして、長年育児の現場を取材し、そこで見聞きした「最近こういう動きがありますよ」というのを、物語として群像劇風に伝えるという感じです。特定の団体を批判したりするつもりはあまりありません。
今西: なるほど。物語はフィクションなんですね。
ノジル: 企画のきっかけには今まで取材してきたノンフィクションがあります。それらをヒントに作り上げた世界です。
今西: 具体的に、ノジルさんの聞いた話の中で「これはまずい」と感じる例はありますか?
ノジル: そうですね。漫画の中にも色々な食に関する描写が出てきますが、育児に関わらず、食にまつわる健康法はいつの時代も定番です。特に育児においては、親が子どもに対して一番コントロールしやすいのが食の部分なので、煽ってくる界隈が非常に多いと感じています。例えば、手作り発酵食品や添加物・農薬への過剰な忌避感、市販のお菓子を「毒」のように誘導する描写が本には出てきます。その延長線上で最近気になるのは、国政政党の元メンバーが流行らせている「四毒抜き」ですね。
今西: 「四毒抜き」の本はすごく売れているんですよね。
ノジル: ええ、Amazonでもベストセラー入りになるほど売れています。ただ、これはあの方個人の考えた健康法で、根拠がない上に厳密にやるには非常に大変な食事法だと思います。大変であるほど「帰属意識」が高まる側面もあり、政治にも利用されやすい。大人が好きでやる分には構いませんが、子どもに実践する人が出てきているのが問題です。2019年にはフロリダで乳児にビーガン食をさせて死なせてしまった事件もありましたが、ああいう極端な食事制限を流行りの健康法として子どもに実践するのは非常に危険です。たとえ健康上の問題が出なくても、食の体験が奪われるというネガティブな側面もあります。外食ができなくなったり、学校給食を拒否するようになったりするケースもありますね。
今西: 「四毒抜き」は本が売れているだけでなく、実際に実践している人も多いんですか?
ノジル: とても多いですね。政党支持者でなくても、流行っているからとカジュアルに実践している人がいます。あの方はもう政党を辞めてご自身で別の政党を立ち上げていますが、元々ファンが多く、動画配信やトークがうまいので、そのファンがついていっている状況です。彼は今でも「母乳や卵子の質に関わる」といったデタラメな情報を発信し続けています。親としては子どもの将来に関わる話となると実践してしまうのは仕方ないのかもしれませんが、本当に根拠がない話です。
今西: それは大変な状況ですね。
ノジル: ええ。あとは、極端な「四毒抜き」ほどではないにせよ、自治体も取り入れているオーガニック給食のような動きもありますね。上映会が開かれたりして、「オーガニック給食でアトピーが治った」といった話が広まり、ある国政政党などが政策に反映させています。品川区なども今年10月から実施するようですが、自治体が採用すると「体にいい」ということが既成事実のように見えてしまう。その延長線上に「四毒抜き」のような過激な食事法が子どもに押し寄せているように感じます。オーガニック給食と「四毒抜き」は直接つながっているわけではないですが、「フードファディズム(特定の食べ物の健康効果を過大評価すること)」という点で親和性が高いんです。オーガニック好きの人が「四毒抜き」に流れていくパターンはよくあります。
今西: 親御さんが根拠のない情報に希望を見出し、その効果を信じきっているということですね。
ノジル: 信念の度合いにはグラデーションがありますが、厳密に実践している方はもちろん信じています。しかし、効果がなかったという最もシンプルな動機で「沼」から抜けてくる人もいます。ダイエットならカロリーの問題で多少痩せることはあるかもしれませんが、子どもの発達障害やアトピーなど、単純な話ではない部分では効果が出にくいです。昔の玄米菜食でガンが治るという話もそうですが、子どもの問題解決のために実践している場合は、効果が出ないと次の解決法を探さざるを得ません。そこで目が覚めるお母さんもいますが、結局また次のものを求めて別の「沼」に移っていくだけということもあります。
今西: 根本的な問題が複雑に絡み合っているのですね。育児の不安や孤独感といったものが、そうした健康法に引き込まれるきっかけになるのでしょうか。
ノジル: まさにその通りだと思います。子育てに不安を抱えていたり、自己肯定感が低かったりするお母さんは、「言い切って煽ってビジネスにつなげる」界隈の言葉に非常に惹かれやすい。彼らは一見すると親身に寄り添ってくれるように見えますが、高額な商品やサービスにつながっています。不安につけ込み、言葉でコントロールするのは、まさに呪いのようなものです。
今西: 自然派にハマるお母さんには2パターンあるように感じます。一つは周りに感化される人、もう一つは突然「目覚めた」ようにインスタで発信を始め、女性起業家としてある商品などを突然売り出すタイプです。これは、マルチ商法とも関連するのでしょうか?
ノジル: ええ、自然派商品を扱うマルチ商法も存在します。手法がマルチであるだけで、医療を否定し、自然を過剰に煽るという基本は同じです。漫画に出てくるボスママの真理子さんは、後者の要素があり、子どもの発達状態を直視したくないため、自分の都合のいい情報を切り取って作り上げた「箱庭」のようなサークルを形成しています。これは、カルトが「目覚めた人だけが救われる楽園」を信じる構造や、陰謀論者が「自分たちだけが世の中の仕組みに気づいている」と考える構造と非常に似ています。
ご指摘のパターンのほかで漫画に登場させたのは、「自然派2世」と呼ばれる悠月さんのような人物です。これは母親からそうした生活を叩き込まれてきたケースですね。幼少期に埋め込まれたものは手放すのが難しく、反発しても結局戻ってきたり、一部実践し続けたりすることがあります。最近では近所に「分子栄養学」の店があり、20代くらいの若い店主が子どもの頃からの食生活だから、それが当たり前だったと話していました。その方もまさに2世だと感じましたね。
今西: マルチ商法にも「2世」がいるんですか?
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