聴診は服の上から?問題を考える
皆さん、こんにちは。
今回はSNSで話題になっている「聴診問題」について私の私見を述べていきます。
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事の経緯
とあるSNSの投稿が物議を醸しています。
ある母親が医療現場でのプライバシーの問題に対して「男性医師が聴診器を使う時そもそも服をめくらずに聴くところもある」と投稿しました。

それに対して、EARL先生がコメントを返します。

さらにそれに対して看護師と思われるアカウントがコメントを残します。

それに対してよくわからないコメントも。

登場人物の中でどこまでが本当の話なので、どこまでが実在する人の話なのか定かではありません。
ただこのやり取りを見て、「そもそも服の上から聴診できるものなのか」と不安に感じられた方もいるかもしれません。
私も平素から小児科医として性被害の撲滅に力を入れていますが、ここは健診現場での側彎症と同じ問題を含んでいて、病気が見逃されるリスクとの兼ね合いが重要だなと感じています。
ちなみに聴診は新生児科医にとって「生命線」です。むしろそれだけで治療方針を決める事もあるくらい重要な診察所見です。今日はそんな話をしたいと思います。
聴診で何がわかる?
まず大前提として聴診は、単に胸の音を聴くことではありません。
先ほど言ったように、私は新生児医療を専門とする小児科医で、聴診は診療の中で「生命線」です。むしろ聴診をしたかどうかは非常に重要で、プレゼンで「していない」と言うと炎上します。
聴診は、まだ言葉で症状をうまく伝えられない子どもの体から発せられる、重要な所見なのです。
19世紀に発明されて以来 、聴診は、医療における最も基本的で、安全かつ価値のある診断技術の一つであり続けています 。体に傷をつけることなく、費用もかからず、その場で心臓や肺、さらにはお腹の動きに関する貴重な情報を得ることができます。
医師が子どもの胸や背中に聴診器をあてるとき、まず注意深く聴いているのは呼吸の音です。
健康な肺では、空気がスムーズに出入りする「サー」という清らかで柔らかい音がします。これは正常な呼吸音で、これが左右差ないかどうかは新生児医療現場でもとても重要です。
一方で、病気のサインとなる異常な音も存在します。お子さんが喘息ならご存知と思いますが、ヒューヒューという甲高い音も大事な所見で、これが空気の通り道である気道が狭くなっている事を示します。またプチプチといったような髪の毛を指でひねった時のような音は肺の奥深くにある気道に液体が溜まっている事を指します。
もちろん肺だけではありません。
何より大切なのは心臓の音の聴診です。健康な心臓は「ドクン、ドクン」というリズミカルな2つの音(Ⅰ音とⅡ音)を繰り返します。医師が聴診で探しているのは、この規則正しいリズムからの逸脱や、余計な雑音です。 SNSでも話題になりましたがこのドクン、ドクンという心臓の音が聞こえればOKということではないのです。
特に小児科で重要なのが「心雑音」の発見です。心雑音は、心臓内の血液の流れが乱れることで生じる「シュー」「ザー」といった音で、先天性の心臓病の最初の兆候であることが少なくありません。
我々新生児科医の場合は、動脈管という本来は生後24時間以内に閉じる管が生後も空いている事があり、この血管が閉じないことで容易に心不全になります。
この雑音が本当に聴こえるかどうかは耳を澄まさないと聞こえません。我々の患者さんは皆人工呼吸器につながっているので、この人工呼吸器の音だけでも容易に聞こえなくなります。なので、この雑音の聴診時には用手換気にして少しでも呼吸音の影響を少なくしながら慎重に慎重に聴診します。
服の上からではまず見落とす可能性があるので、当然服をめくって肌に直接当てていきます。
その雑音が聞こえず、本来すべき動脈管の治療が遅れれば命に支障がきたします。
子どもの体は、大人の体をそのまま小さくしたものではありません。
気道は細く、胸壁は薄く、呼吸数や心拍数も速いという特徴があります。そのため、わずかな粘液や腫れでも呼吸困難に陥りやすく、体の状態が急変することもあります。聴診を含む丁寧な身体診察は、こうした子どもの重篤な状態の兆候を早期に捉えるために不可欠なのです。
服が聴診に与える影響
ではこの「服」は聴診にどのような影響があるのでしょうか?
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