亡くなられた人への尊厳〜美容外科医による解剖実習問題と新生児医療〜
今年も残すところわずかになりました。
皆様にとって今年はどんな年でしたか?
私は新しい読者さん達にお会いできてとても充実した一年でした。質のある記事を書く事ができる場所を探していたので、このニュースレターを発展させる事ができたのはとても喜ばしい事です。
来年も精一杯書いていきますので、よろしくお願いします。
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美容外科医による解剖実習問題
事の発端は、ある美容外科医が解剖目的に提供された御検体の前でピースしてその様子をSNSにアップしたという物です。
これはSNSで大炎上。
それどころか各種主要メディアもこの様子を報道して、ついには美容外科学会まで声明を発表する事態となっています。
そして昨日、この医師は所属先から解任されてしまいました。美容外科は雇用関係でなく業務委託にしているケースもあるので、これが解雇なのか、解任なのかは自分の方では判断しかねますが、いずれにせよ我々医療業界を騒がせてしまった事には変わりはありません。
一方でこの事件を通じて感じた事は、自由診療にいると学んだり、知識のアップデートが難しいであろう「生命倫理」の部分が欠落しているという部分でした。
これらの分野は長い間そちらの業界にいると知識のアップデートが難しいのは仕方のない事です。
なぜならわたしも新生児医療に長らく携わっているからこそ、これらの知識や認識がアップデートできたからであり、この業界にいなければ恐らくこれは難しかったでしょう。
今回は亡くなられた方への尊厳をどう保っているか、新生児医療現場を参考に解説していきたいと思います。
問題化するSNS
みなさんも御存知の通り、医学部では解剖実習が必須です。私の大学では基礎医学を2年間行った後に3年生になって初めて解剖実習の授業がありました。私の同級生達はみな真面目で、当然ですが検体への敬意を感じながら、人体の解剖を行いながら人体の仕組みを勉強させてもらいました。
私の大学では解剖学の先生が非常に厳しく、試験も非常に厳しいものがありました。その為とても緊張感を持って勉強をした記憶があります。当時は心理的にも負担感が大きかったですが、それだけ得るものが大きかったです。
また解剖実習を行った学年の医学生は、検体頂いた方の慰霊祭に出席必須でした。その時に検体頂いた方の御遺族も出席しておられるので、その時に慰霊を行うと共に感謝をお伝えする機会もあり、とてもいい機会だったなと感じています。
一方で、私が医師になった今から18年前はスマートフォンは出始めた頃で、自分も大学5、6年の頃にスマートフォンを持ち出した記憶があります。当然SNSなどもありませんでした。それはそれで幸せな時代だったかもしれません。
とは言いつつ、テクノロジーは発展する訳ですから、こういった懸念が世界中で出てくるのは仕方がありませんし、避けられない問題です。
すでに複数の医療者から御指摘がありますが、この行為自体は米国でも法律違反の様です。
患者の医療記録や個人情報を保護することを目的としているHIPAA(Health Insurance Portability and Accountability Act)というアメリカの医療情報保護に関する法律で、ソーシャルメディア上で患者の情報を共有する事はHIPAA違反とされています。違反の重大性に応じて最大で1,500万ドル(20億円近く)の罰金が科される可能性があるとの事です。
この美容外科医のSNS利用法は論外ですが、実際に解剖学の分野を中心に解剖におけるインターネットやソーシャルメディアの使用に関する倫理的問題を取り上げた研究が複数あります。