子どもの不登校は予測できるのか?〜海老名小中学生殺人事件から考える〜

子どもの不登校は予測できるものなのでしょうか?研究結果を元に解説しました。
今西洋介 2025.01.05
サポートメンバー限定

あけましておめでとうございます。

ついに2025年が幕を開けました。皆様の今年の目標は何でしょうか?

私の今年の目標は研究を進める事と、このニュースレターを毎月5-6本書いていく事です。あとは英語の勉強ですね。英語が話せると世界が広がる気がしています。

では、今年も始めていきましょう。

ふらいと先生のニュースレターは、子育て中の方が必要な「エビデンスに基づく子どもを守るための知識」を、小児科医のふらいとがわかりやすくお届けしています。

過去記事や毎月5-6本すべての「エビデンスに基づいた子どもを守るための知識」を受け取るには有料コースをご検討ください。今回の記事も登録いただければ最後まで読めます。

悲しい事件

年の瀬にまたしても悲しい事件が起きてしまいました。

12月29日午後11時前、神奈川県・海老名市の住宅で15歳、13歳、9歳の子ども3人が倒れているのが見つかり、その後、全員の死亡が確認されました。帰宅した父親から「子どもが頭を怪我している」と消防に通報がありました。

この事件で、9歳の長男を殺害した疑いで49歳の母親が逮捕されました。自宅で9歳の長男の頭を殴るなどして殺害した疑いが持たれています。母親は調べに対し容疑を認めており、その後自殺を図ろうとしていたという事です。

その後の報道で、母親は子育てに悩んでいたと供述している事が分かりました。厚木児童相談所は、2023年3月に「長男の不登校とかんしゃく」について相談を受け、継続支援中だったとのことでした。海老名市教育委員会によると、24年11月、長男が通う小学校の臨床心理士にも、この家庭から子育てに関する相談があったとの事でした。

この事件に関してはまだ捜査段階ですので言及は避けますし、未来ある尊い命を3人も奪った罪はしっかり償ってほしいと思います。

当然かばう気はありませんが、一方で不登校児を外来で診察している立場としては親御さんの「追い込まれていく」感覚はよく分かります。ここで親御さんによく聞かれる質問として「幼少期から不登校を防ぐ事はできるのでしょうか?」というものがあります。

では、この不登校は幼少期から予測できるのでしょうか?今回はこちらをテーマに複数の研究結果をご紹介します。

深刻化する不登校問題

まず不登校に関する最新のデータをおさらいしましょう。昨年の10月末に文部科学省から「令和5年度 児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査結果」が発表されました(#1)。これは令和5年度間を調査対象期間として暴力行為・いじめ・不登校を含めた長期欠席を調査対象としたものです。

まずは下のグラフを見ていきましょう。これは小中学校における不登校児童生徒数の推移を表しています。

小中学校における長期欠席者のうち、令和5年度の不登校児童生徒数は346,482人(前年度299,048人)であり、児童生徒1,000人当たりの不登校児童生徒数は37.2人(前年度31.7人)でした。不登校児童生徒数はここ11年連続で増加しており、過去最多になっています。

では、次に不登校児の内訳を見ていきましょう。

これを見ると、小学生・中学生ともに「生活リズムの不調に関する相談があった」・「学校生活に対してやる気が出ない等の相談があった」・「不安・抑うつの相談があった」が非常に多い事が伺えます。

原因別で見ると、小学生は「親子の関わり方に関する問題」が多く、中学生は「いじめ被害を除く友人関係をめぐる問題」が多い結果でした。学業の不振や頻繁な宿題の未提出が見られたのは小学生で14.7%、中学生で15.5%とどちらも非常に多い結果となりました。いじめの被害が小学生・中学生ともに1〜2%というのはこんなに低い事はないでしょうとは思いますが。

一方で、この不登校児がどれだけ支援を受けているかを表したものです。

これを見ると、学校内外の機関等で専門的な相談・指導等を受けた不登校児童生徒は約21万2千人(前年度約18万5千で、不登校児童生徒に占める割合は61.2%(前年度61.8 %)となっています。この割合が年々減少しているのは、これだけ母数が増えているのでそれに対して追いついていない現状をよく表しています。

小児科領域でも、専門的な相談・指導等を行う不登校外来はまず少ないですし、あっても年中常に予約は満員状態で予約がなかなか取れない状況が続いており、増える需要に支援が追いついていないのが現状です。

子どもの不登校は予測できるのか?

私は不登校の子どもを診察する事もありますが、ここで多い質問が「不登校は幼少期から予測できないのか?どんな子に多いのか?」というものです。

これを検討した研究が複数あるのでご紹介していきましょう。

この記事はサポートメンバー限定です

続きは、2764文字あります。

下記からメールアドレスを入力し、サポートメンバー登録することで読むことができます

登録する

すでに登録された方はこちら

提携媒体・コラボ実績

サポートメンバー限定
妊娠中の旅行(マタ旅)は米国でOKとされるか?〜新生児専門医の視点から...
サポートメンバー限定
亡くなられた人への尊厳〜美容外科医による解剖実習問題と新生児医療〜
サポートメンバー限定
同意教育が子ども達に何をもたらすか〜滋賀医大生事件から考える〜
サポートメンバー限定
Q&A: 思いやりが育つ年齢、1日13時間寝てほしい、子どものいびき対...
サポートメンバー限定
3歳児神話の終焉〜やっぱり保育園に通う子は発達が良い〜
サポートメンバー限定
10代で出産は赤ちゃんにオススメ説は本当か
サポートメンバー限定
障害児を殺めた母親の減刑要求の先にあった世界
サポートメンバー限定
Q&A: 子どもはインフルエンザワクチン打つとかかりやすくなる?、腸内...