「ゲームで発達障害を治療する」は本当?
皆さん、こんにちは。
6月2本目ですね。米国では明日いよいよPromotion dayと言われる卒業式が行われ、長女が米国の中学校を卒業します。
子育てを15年間やった事になります。あと3年間で巣立っていくのかと思ったらあっという間でした。アンパンマンのカートに乗って、駅前で色んな人に手を振っていた1歳の時の彼女を思い出すと、大変だったけど楽しかったなと思えるし、もう2度とあの頃は帰ってこないと思うと寂しくなります。
さて今回は、ゲームを治療として処方する時代についての話です。
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「ADHDの治療にゲームが処方される時代が来た」
こんなニュースを見て、驚いた方も多いのではないでしょうか。
育児をする世代にとって、ゲームといえばやりすぎを心配するもの」いう印象が強いだけに、それが医療として処方されると聞くと、戸惑う気持ちはよく分かります。
実際、保護者の集まりや園のママ・パパのグループでも、こうした新しい治療の話題はあっという間に広がります。
「ゲームで集中力がつくらしい」
「うちの子にもやらせたほうがいいかも」
「でも所詮ゲームでしょ?」
新しいものほど、良い噂も大げさな話も一緒に流れてきますから、ここで一度立ち止まって、実際のところどうなのかを確かめておく価値は大きいでしょう。
今回は、2026年に日本で保険適用が決まった小児ADHD向けデジタル治療アプリ「エンデバーライド」をもとに、「ゲームでADHDは本当に良くなるのか」という問いを、できるだけていねいにお話ししたいと思います。
ゲームが処方される時代
治療アプリが保険で処方されるという事
2026年6月、塩野義製薬から、小児期のADHD(注意欠如多動症)を対象とした国内初のデジタル治療補助アプリ「エンデバーライド(ENDEAVORRIDE)」が発売されました。
同年2月に国内での製造販売承認を取得、6月に公的医療保険の適用対象となったもので、不眠症向けのアプリとともに、医師の処方が必要な治療アプリとして正式にスタートしました。
これまで治療アプリと言えば、ニコチン依存症・高血圧・アルコール依存症向けの製品が保険適用されてきましたが、子どものADHDを対象にしたものは日本で初めてになります。

エンデバーライドの一画面
使い方のイメージとしては、医療機関で発行されたコードを使ってスマートフォンやタブレットにアプリを登録し、医師の管理のもとで自宅で取り組む、という流れです。
アプリ自体の価格は14,500円ほどで、3割負担の方であれば窓口でのアプリ分の自己負担はおおむね数千円程度、これとは別に診察料がかかります。お住まいの自治体の子ども医療費助成が使える場合には、さらに負担が軽くなることもあります。
市販のゲームアプリとはまったく違う、医療機器として承認された製品だという点が、まず大きなポイントですね。
そもそもADHDは、集中が続かない、忘れ物が多いといった不注意や、じっとしていられない、待つのが苦手という多動・衝動性といった特性が、年齢に不釣り合いに強く、生活に支障をきたしている状態を指します。
毎回このニュースレターで言ってますが(!)、親の育て方のせいでも努力不足でもなく、脳の発達の個性によるものです。
そして、その支援の柱は昔から大きく三つあります。
子どもが過ごしやすいように生活環境を整える環境調整、望ましい行動を増やしていく行動療法・心理社会的支援、そして必要に応じて検討する薬物療法です。
今回のような治療アプリは、この三本柱のどれかを置きかえるものではなく、新しい四つ目の選択肢として加わった、というのが正しい表現でしょう。
世界的にも、こうしたスマホやアプリを使った医療は「デジタル治療(デジタルセラピューティクス)」と呼ばれて広がりつつあり、エンデバーライドはその子ども向け・ADHD向けの先がけにあたります。
乗り物を操作しながら課題をこなす
では、エンデバーライドとは具体的にどんなアプリなのでしょうか。
画面の中で乗り物を左右に動かして障害物をよけながら、同時に、画面に出てくる特定の目標に反応してタップする
二つのことを同時にこなすというこの操作が、このアプリの本懐です。
専門的には二重課題(デュアルタスク)と呼ばれます。
私たちが車を運転しながら標識を見つけるように、注意を二つに振り分ける必要がある作業をイメージしていただくと近いかもしれませんね。
さらにこのアプリは、子どもの出来具合に合わせて、難しさを自動でこまかく調整していきます。簡単すぎず難しすぎない、ちょうどよいギリギリの負荷をかけ続けることで、注意を切り替えたりコントロールしたりする力を働かせ続けさせる、という設計です。
なぜこうした設計にするのかというと、ADHDでは今大事なことに注意を向け、関係のない刺激に引っぱられないようにする脳のはたらき、つまり注意のコントロールが苦手になりやすいと考えられているからです。
デュアルタスクで、その苦手なはたらきにあえて負荷をかけ、ちょうどよい難しさで繰り返し働かせることで、その力を底上げできたらというのが、開発の背景にある考え方のようです。
使い方は1日およそ25分、6週間続けるのが基本で、6週間を超えては使えない仕組みになっています。再び使う場合は4週間以上あけることが勧められています。
ゲームだから好きなだけではなく、用法・用量が決められた「薬」のような使い方をする点は市販ゲームとの大きな違いです。
また明るい部屋で正しい姿勢で取り組むこと、体調に異変を感じたら中止すること、光に敏感なてんかんの既往がある場合は使用の可否を慎重に判断することなど、安全に使うための注意も定められています。
アプリには使用状況を確認するしくみもあり、医師が定期的に効果と安全性を見ながら、続けるかどうかを判断していきます。つまり渡して終わりではなく、医師の管理のもとで使う医療機器なのです。
ルーツはアメリカ生まれのEndeavorRx
このエンデバーライドのおおもとは、アメリカのアキリ社(Akili)が開発した「EndeavorRx(エンデバーアールエックス)」、開発段階の名前で言うと「AKL-T01」というデジタル治療です。
RXというと、我々世代では皆さん「仮面ライダーRX」を思い浮かべると思いますが、決して違うRXです。

そういえば仮面ライダーRXで思い出しましたが、日曜朝9時からおじいちゃんの部屋に行って見る仮面ライダーRXが自分にとっては楽しみでした。しかし、忘れもしない1月のある日曜日、朝から「昭和天皇 崩御」のニュースで民放は一斉に平常運転を取り止めて、昭和天皇のニュース一色になってしまいました。一緒に楽しみにしてた弟が「なんで天皇死ぬんや」と母親に泣いて訴えてて、そりゃ母親に言ってもしゃーないやろと思ったのはもう30年前です。

すいません、大きく脱線したので、話を元に戻しましょう。
塩野義製薬が日本と台湾での開発・販売権を取得し、日本向けに承認を得たのが今回のエンデバーライドにあたります。
EndeavorRxは2020年6月、アメリカのFDA(食品医薬品局)から、ADHDの子どもに対する処方箋が必要なビデオゲーム型の治療として、世界で初めて認められました。
医師が処方するゲームという、それまでになかった発想が実際に医療制度の中に位置づけられたと言えます。アメリカでの対象は8〜12歳で、不注意が主体、あるいは不注意と多動・衝動性が混ざったタイプのADHDで、実際に注意の問題が確認された子ども、とされています。日本のエンデバーライドが6歳以上18歳未満を対象としているのと比べると、もともと想定された年齢の幅にも少し違いがあります。
ただ、ここで大切なのは、FDAが認めた=どんな子にも劇的に効く魔法の治療というわけでは決してないということです。
承認というのは「一定の基準を満たす効果と安全性が、きちんとした試験で示された」という意味であって、全員に大きく効く、薬がいらなくなることを保証するものではありません。では実際の臨床試験は何を示し、何を示していないのか。ここからは、その中身を一緒にていねいに見ていきましょう。
どこまで「効果がある」のか?
アメリカの大規模試験「STARS-ADHD」が示したこと
EndeavorRxの土台になったのが、アメリカで行われた「STARS-ADHD」という臨床試験です(#1)。
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