「女性の出産後の仕事復帰は将来的なボケ防止になる」説を検証
いよいよ9月ですね。
新学期の準備に忙しくされていたと思います。
終わっていないご家庭は、夏休みの宿題に追われていたかと思います。色んな意味で長い夏休み、本当にお疲れ様でした。
今回はこちらを解説していきます。
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専業主婦は将来的にボケやすい?
とあるお母さんからこんな質問を受けました。
「出産後、働くかどうか迷っています。専業主婦になるとボケやすくなると聞いたのですが、これっって本当ですか?」
確かにこれは巷によく聞く噂ですが、本当なのでしょうか?
そもそも「ボケる」と言うのは厳密に言うと正式な医学用語とは言えません。
一般的に、ボケは年を重ねるごとに起きる生理的変化を指す通俗的な表現です。医学的には、その代わり「認知症」という言葉がその表現として用いられる事が多いです。
認知症の概念としては、脳の器質的な病変が原因で一旦獲得された知能が加齢によって起きた障害であり、このために日常生活に来した状態を指します。
65歳以上の高齢者では、認知症の発症は7人に1人程度とされ(2012年時点)、年齢を重ねるほど発症する可能性が高まり、認知症の前段階と考えられている軽度認知障害(MCI)の人も加えると4人に1人の割合となります。しかも認知症の人は増え続けると予想されており、厚生労働省のデータによると、2025年には65歳以上の約5人に1人が認知症になると予測されているのです(#1)
生理的老化に伴う「ボケる」も、病的な「認知症」も、「記憶力の低下」が症状の共通としてありますが、その記憶力の低下という中身が異なります。
ボケるという生理的老化に伴う記憶低下は、
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最近の記憶が低下する
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「思い出せない」が目立つ
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事実や出来事を覚え言葉で述べる事ができる記憶(陳述記憶)や、体で覚えた技術(手続き記憶)は失われない記憶の低下を自覚している
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記憶の低下を自覚している事が多い
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進行スピードはゆっくり
それに対して、認知症に伴う記憶低下は
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記憶全体は著しく低下する
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見当識(いつ、どこ、人物など)が障害される
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学習能力が著しく障害
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記憶の低下を自覚しない
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進行スピードが速い事がある
と大きく異なります。
こういった違いがあるので、厳密には「専業主婦は将来的にボケるのか?」という疑問は医学的に正確な表現でなく、
「専業主婦は将来的に認知機能が低下するのか?」
という問題提起に変えて検証していきたいと思います。
女性の仕事と認知機能に関する米国の研究
アルツハイマー型認知症を患う米国人の約2/3は女性であるので、米国ではこれに関する研究が活発にされています(#2)。それに、この100年で、先進国の女性の就業、子育て、結婚のライフコースのパターンは劇的に変化しました。
これらのライフコースの変化は老後の健康や認知機能に大きな影響を与える可能性があります。
その中でも、給料をもらえる労働をする事は人の人生において認知機能低下の防止になるのではという事は昔から指摘されていました (#3-6)
では、女性の場合はどうでしょうか?
女性の場合には結婚して出産すると、仕事に復帰するか、専業主婦になるかという選択肢が出てきます。この仕事の復帰は将来的に認知機能に影響を与えるのでしょうか?
この疑問に通じる、女性の仕事と認知機能に関して2020年に発表された米国での研究があるので紹介します。