赤ちゃんの看取り〜新生児の終末期医療を考える〜
最近、メディアで「延命治療」が話題でした。
医療費総額が膨大な費用になる中で、AbemaPrimeで以下のような放送回があった事も大きいでしょう。
今、進行する少子高齢化と膨らみ続ける医療費を前にして、国民皆保険が存続できるかどうかという瀬戸際に立っています。このようにメディアで高齢者の延命治療について国民的議論が起きるのは結構な事だと個人的には思います。
自分は小児科の中でも新生児を専門とする医者生活が17年目に入りますので、長らく成人を診療していません。当然、高齢者はこの15年間診療した事がありません。研修医の時に確かに「この人を退院させないで」と言っている家族もいて看護師が怒っていた記憶だけは確かにあります。その程度の経験なので、この議論に加わるほどの専門性は自分にはありません。
一方で、あまり世間では知られていませんが、新生児医療にも終末期医療が存在します。未来ある赤ちゃんにおいて、この課題は長らく存在していたものの簡単に触れられる雰囲気でなく永らくタブー視されていました。しかし最近、学会でもこのテーマのシンポジウムが行われ、注目を浴びる話題であることは確かです。
今回はこの「新生児における終末期医療」という大変重いテーマをお送りしましょう。
どうしてこんな事に・・
新生児医療は赤ちゃんのための医療であって、そんな中で終末期医療とはおかしいのでは?と疑問を持たれる方も多いと思います。
その疑問は当然で、小児医療は高齢者医療と比較すると「死」から遠い医療です。というか遠い存在でなければいけません。
一方で、小児科の中でも新生児医療と小児がんを取り扱う血液腫瘍科はその性質上、「子どもの死」と近い距離で医療を行っています。新生児医療は出産という人生で最も命の危機に遭うイベントの直下で行うものですから、息を吹き返すための蘇生処置を行います。
では、今回我々がよく遭遇するシチュエーションを仮想して提示します。皆さんは当事者になりきって想像して下さい。あくまでこの記事を書いた段階で作成したストーリーです。
予定日まであと1週間の妊娠39週のお母さん。
昨日の健診も順調で「あとは陣痛が来るのを待つだけですね」と言われました。ベビー用品も買い揃え、お父さんも赤ちゃんが産まれたら育休を取りたいと会社にも伝えてあります。
病院から帰って家でくつろいでると、いつも動いているお腹の赤ちゃんが動いておらず胎動を感じません。「もう寝てしまったのかな」と思い、夕飯と入浴も済まし、自分も寝ることにしました。
夜中、突然の腹部の激痛で目が覚めます。気づけば下半身から大量の出血。
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- 突きつけられる治療の差し控え
- 新生児における予後不良の難しさ
- 話し合いのプロセス
- 家族を置き去りにしない
- あとがき
- 参考文献
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